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岸田政権「辞任ドミノ」どこまで続く!? 岸田おろしせず財務省支配の“増税”策

岸田文雄
岸田文雄 (C)週刊実話Web

相次ぐ閣僚の辞任で岸田政権の行き詰まりが顕著になってきた。もはや唯一の頼みの綱になった財務省は、増税による財政再建を視野に入れる。来春の統一地方選挙が低調な結果に終われば、岸田文雄首相は5月の広島サミットが退陣の「花道」になりかねない。

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「葉梨には辞めてもらう。期待していたのに、いったい何をやっているんだ」

岸田文雄首相は周辺に怒りをぶちまけた。葉梨康弘法相の更迭を決めたのは11月11日。葉梨氏は9日、自民党岸田派所属議員のパーティーで、法相の職務について「死刑のはんこを押すだけの地味な役職」という問題発言をしていた。

「人権意識のかけらもない、人としてあり得ない発言」(岸田派ベテラン議員)をしたのに、直ちに更迭せずに判断が遅れたのは、葉梨氏が旧統一教会(世界平和統一家庭連合)をめぐる関係省庁連絡会議の取りまとめ役をしているからだ。

「旧統一教会への対応にこそ政権の命運がかかっている。首相は解散命令請求を出すため、刑事、民事などの各面から教団の組織的な悪質性をあぶり出したい。そのキーマンが葉梨氏だった」(同)というわけだ。

だが、問題の発言が「パーティーで笑いを取る定番のネタ」だったことが分かると、自民党内からも「辞任は不可避」との声が続出。首相は11日朝になって、ようやく更迭を決断し、葉梨氏に直接電話をした。

岸田政権での閣僚交代は、旧統一教会との深い関係が問題になった山際大志郎前経済再生相が1人目。政治資金の問題をめぐり、臨時国会で野党の追及を受け続けた寺田稔総務相も、永田町では「もう持たないだろう」と見る向きは多かった。寺田稔総務相をめぐっては、10月上旬以降、自らが関係する政治団体の政治資金問題を相次ぎ指摘され、21日に総務大臣を辞任した。さらに秋葉賢也復興相が、同じく「政治とカネ」の問題を抱えている。

先のベテラン議員は「3人、4人と閣僚が辞任したら、首相は任命責任や資質を強く問われる。政権運営がいよいよ厳しくなってきた」と、ため息をつく。

だが、岸田政権が苦境に陥っているのは、閣僚の不祥事だけが原因ではない。夏の参院選以降、政権がつまずく要因となった旧統一教会問題に、依然として足元を絡め取られていることが大きい。

いまだ続く旧統一教会問題…

首相は旧統一教会の解散命令請求を視野に、宗教法人法に基づく質問権を行使する方向に舵を切った。だが、現状では展望が開けているとは言い難い。

10月18日の衆院予算委員会で、首相は請求要件について「刑法などの規範違反のみ」と答弁したが、翌19日の参院予算委では「民法の不法行為も入り得る」と述べ、一夜にして異例の修正を行った。

政府関係者は、答弁の解釈修正の背景について「旧統一教会本体の刑事責任を認めた確定判決がなく、教団の反社会性を立証するには、民事の事案を引かなければ難しいことに気付いたからだ」と明かす。

だが、信者からカネを集める際の指揮・命令系統、カネの流れや使途を解明しようにも、帳簿の押収や立ち入り検査は難しいのが実状だ。

文化庁は12月中にも質問権を行使する方針だが、教団による「広範な被害」を根拠付けられず、これが不発に終わる可能性もゼロではない。

被害者救済法の制定も同様だ。これにも当初、首相は消極的だったが、世論の批判や内閣支持率の低迷を受けて、11月8日に「開会中の臨時国会を視野に、政府として法案を提出すべく最大限の努力をする」と踏み込んだ。

しかし、超党派で進めるべく国対主導で自公両党と立憲民主党、日本維新の会が与野党4党による協議会を立ち上げたものの、調整は難航。首相は取りまとめ役に自民党の萩生田光一政調会長を指名したが、萩生田氏こそ旧統一教会との深い関係を批判されてきただけに、非難囂々となった。

結局、茂木敏充幹事長が「自らの功名心と萩生田氏をけん制する思惑」(同)から、与野党6党幹事長・書記局長の枠組みをつくって調整の主導権を握った。だが、自民党内だけでなく、創価学会との関係で腰が重かった公明党との間にも、大きなしこりを残す結果となった。

しかも法案は、野党が要求してきた寄付上限額の設定や、家族が寄付を取り戻せるようにする内容などが不十分。法案が成立しても、実効性が伴わなければ、首相への批判がさらに強まるのは必至だ。

首相は、山際氏が閣僚を辞任した直後に、自民党のコロナ対策本部長に就任する人事を了承し、党関係者から「あり得ない」とあきれられたばかり。

さらに、党関係者は「山際氏は麻生太郎副総裁が率いる麻生派所属で、派閥幹部の甘利明前幹事長の直系だ。麻生、甘利氏に忖度した萩生田氏が本部長への就任を決め、その人選を首相は断れなかった」と内情を明かす。

だが、思い起こせば、こうした忖度人事は枚挙に暇がない。最たるものは安倍派幹部の高木毅党国対委員長を続投させた人事だろう。

「とにかく国会運営がなっていない。2022年度補正予算案など重要案件の審議日程を見通して、野党側と折衝しないといけないのに、高木氏はいつも行き当たりばったりだ。立憲民主党の安住淳国対委員長からの電話を丸一日拒否して、無駄に怒らせたりもした」(国対中堅)

高木氏は昨年10月、岸田政権成立を受けて国対委員長に就任したが、今夏の参院選後に交代させると思われていた。しかし、安倍派に影響力を持つ森喜朗元首相が首相に談判し、続投となった経緯がある。

先の国対中堅は「高木氏は森氏に近い。森氏からすれば、自分の言うことを聞く高木氏は使い道がある。首相は、そんな森氏の意向を無視できなかった」と、内幕を説明した。

そして、高木氏は官邸側の松野博一官房長官との連携も悪く、いまだ政権がぎくしゃくしている原因の1つにもなっている。政権の要所が誰一人として機能していないのが、今の岸田政権の実態なのだ。

「首相に頭を下げてもらう」

では「こうした体たらくの岸田政権」(首相周辺)を曲がりなりにも支えているのはどこなのか。それは財務省だ。

前国税庁長官だった藤井健志官房副長官補、財務省主計局次長から転じた宇波弘貴氏と、中山光輝氏の2人の首相秘書官だけでなく、官房長官の松野氏にも財務官僚が秘書官として付いている。

さらに、内閣府には審議官や参事官クラスがごろごろおり、藤井氏や宇波氏らの手足となって動く。

「内政全般は藤井氏と宇波氏が仕切っている。木原誠二官房副長官と村井英樹首相補佐官は政治家だが、共に財務省出身なので先輩の藤井氏らに頭が上がらないのです」

首相に近い政府関係者が説明する。

しかし、財務省が首相のためを思って、純粋に身を投げ出してまで支えていると受け止めるのは、あまりに素直すぎるだろう。

先の政府関係者はため息交じりに話す。

「財務省は増税と財政再建しか考えていない。そのために岸田首相を使い尽くそうとしている」

どういうことか。防衛力強化のため9月に入って政府に設置された有識者会議が、1つ目の鍵を握る。

この会議は、中国の軍事的台頭で防衛力の抜本的強化が不可避との現状認識の下、強化の具体策について提言する役割を担うが、議論では大幅増となる防衛費について、財源の手当をどうするのかが最大の焦点となってきた。

有識者会議の関係者によると、2022年度予算で5.4兆円の防衛費について、今後5年間で「計40兆円台前半」とすることを念頭に議論が進んだという。

40兆円だとしても単年度で8兆円となり、現行より2兆円以上の大幅増になる。だが、財務省は当然ながら赤字国債を増やしたくない。そこで法人税やたばこ税に加えて、所得税の増税で手当てしようと目論んでいるのだ。

実際、会議は藤井氏が主導し、事務局も財務省が仕切ってきた。先の関係者の話では、11月中に首相に提言を提出した後、政府税制調査会や自民党税調と連携して、一気に増税の流れをつくるのだという。

有識者会議の財務省系メンバーは「増税はもちろん首相の公約にない。所得税の増税には、国民の反発は特に強いだろう。だからこそ首相には、議論が収束するこの年末に、国民に向かって深々と頭を下げてもらう」と言い切る。

2つ目の鍵は、10月下旬に開催された社会保障審議会だ。国民年金の納付期間を5年延長することについて議論に入ったが、5年延長が決まると全体の納付額が増えるので、それに見合うだけの国庫負担分が必要になる。

試算では約1兆円とされるが、当然のことながら安定財源が必要だ。財政当局の意向を受けたかのように、会議の出席者からは、さっそく「将来の消費税率引き上げを検討する必要があるのではないか」との意見が出された。

結論が出るのは1年以上先になる見込みだが、財務省が岸田政権で法人税と所得税の増税に道筋を付け、さらには将来の消費税増税の「目出し」まで、画策しているのは想像に難くない。

先の岸田派ベテラン議員は「首相を基幹3税すべての増税に関わらせようとするなら、まさに『財務省支配極まれり』だ」と憤る。

〝岸田降ろし〟の動きは皆無

それでも首相は、財務省に「専横」を許しながらも、とにかく国民に頭を下げながら延命を図り、下落を続ける内閣支持率と自民党内における求心力の回復に向けて、反転攻勢の時機をうかがう。

旧統一教会問題については、解散命令請求を出して区切りを付け、来年の春闘で5%のベースアップを実現。さらには、5月に広島で開催するG7サミットでリーダーシップを示すことができれば、もう一度、上昇気流に乗れる――。

これが、首相が描く再起のシナリオだ。

首相は10月29日夜、麻生氏と東京都内のホテルで会食した。麻生氏に近い関係者によると、来年の政局が話題となった。

麻生氏は周囲に「広島サミットを成功させれば、いつでも衆院解散を打てる」と話していることから、会食でも同じ話をした可能性があるという。

「政権にこれだけ逆風が吹いていても、『岸田降ろし』の動きは見られない。11月22日に公職選挙法違反の疑惑が浮上したが、首相にはまだチャンスがある」(前出・政府関係者)

「ポスト岸田」候補を見渡しても、河野太郎デジタル相に対しては、所属する麻生派内に支持が広がらない。茂木氏は後継首相に意欲を見せるが、相変わらず人望がないのがネックだ。

永田町では、菅義偉前首相の動向にも注目が集まる。だが、東京地検特捜部が手がけた東京五輪汚職事件で、菅氏の名前が取り沙汰された経緯から、捜査の展開次第では、身動きが取りづらくなる。

自民党内には、事件が東京・神宮外苑の再開発をめぐる疑惑に拡大し、すでに大手不動産会社の上層部が任意で事情聴取を受けたとの「怪情報」も出回る。

確かな「ポスト岸田」候補が見当たらない状況を受け、与野党を問わず「当面はずるずると岸田政権が続く」(立憲民主党ベテラン議員)との見方は根強い。

しかし、すべてが裏目に出て、来春の統一地方選でも負ければ、暗転するのは早い。岸田首相もいよいよ「胸突き八丁」の正念場に入ってきた。

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