森永卓郎 (C)週刊実話Web
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利権ありきの「総合経済対策」~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

10月28日、政府は物価高や円安に対応するため、家庭や企業向けの電気料金の負担緩和策などを盛り込んだ「総合経済対策」を決定した。


岸田文雄総理は「財政支出が39兆円、事業規模は72兆円で、GDP(国内総生産)を4.6%押し上げる。また、電気料金の引き下げやガソリン価格の抑制などにより、来年にかけて消費者物価を1.2%以上引き下げていく」と強調した。


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補正予算に盛り込まれる一般会計の財政負担は29兆円だ。自民党は当初から昨年を超える財政規模の補正予算を主張しており、どうしても30兆円台に乗せることを避けたかった財務省との妥協の産物が、この29兆円という数字である。ただ補正予算のうち4.7兆円は予備費で、総額の攻防ばかりが目立つ決定だった。問題は予算の中身である。


岸田総理は電気やガス料金などの負担軽減措置により、標準的な世帯で総額4万5000円の負担減になると明らかにした。例えば電気料金は2割引き下げ、ロシアのウクライナ侵攻前の水準に戻すとしている。


もちろん、そうなれば家計の恩恵は大きいのだが、電気料金を下げたままにしていたら省エネルギー対策は進まなくなる。温室効果ガス世界資料センターによると、温室効果ガスが大気中に占める割合は、昨年、世界平均で観測史上最高を記録している。地球を守ろうと考えたら、省エネは差し迫った課題なのだ。


それでは、実際のところ起爆剤としての経済対策は、どうすればよかったのか。私は消費税の引き下げが最適だったのではないかと考えている。補正予算の29兆円という金額は、ちょうど1年間、消費税をゼロにできる金額だ。もし、今回の経済対策でそれを実行できたら、日本経済の復活に向けて大きな効果を発揮することができただろう。

日本はなぜ消費税を下げられないのか

期間限定で消費税がゼロになれば、その期間に住宅や自動車、家具など金額の張る商品を購入しようとする人が増加する。物価高だけでなく、コロナ禍で厳しい経営を余儀なくされている中小企業にとっても、願ってもない支援となる。中小企業は十分な消費税の転嫁が、できていないところが多いからだ。

さらに消費税を撤廃すれば、消費者物価はすぐに10%下落する。物価高対策として、これ以上の効果が見込めるものはないだろう。その上、消費税の引き下げは省エネ努力を阻害しない。小出しの対策を積み重ねるより、あらゆる意味でずっと有効なのだ。


消費税減税は、決して絵空事ではない。コロナ禍以降、欧州各国は躊躇なく付加価値税の減税を実行しており、ドイツは19%から16%に、イギリスは20%から5%へと税率を大幅に引き下げている。


ところが、わが国の岸田総理は国会で野党の質問に答えて、「消費税を下げる考えはない」と、明確に消費税減税を否定した。なぜ日本だけが消費税を下げられないのか。


理由は2つあると思う。1つは、もちろん財務省の方針だ。財務省にとって消費税は、上げるものであって下げるものではない。実際、10月26日に開かれた政府税制調査会でも、複数の委員から「消費税率をアップすべき」との意見が出たという。


もう1つは、政治的な理由だ。これまでのように小出しの経済対策を数多く積み重ねれば、そこには必ず利権がついて回る。ところが消費税を引き下げても、そこには何の利権も生まれないのだ。


経済や国民生活が危機的状況に陥るなかでも、相変わらず政治家は利権のことしか考えない。そんなことをしていたら、日本経済は沈没するだけだ。