インタビュー・孤高のピン芸人チャンス大城〜挫折と失敗だらけの芸人人生〜
地下芸人からスポットライトを浴びる芸人へ! 今年7月に初の著書『僕の心臓は右にある』(朝日新聞出版)を上梓し話題になっている芸人のチャンス大城さん。芸人以前やアングラ時代の逸話にも事欠かないが、当時打ち立てた数々の伝説や人気芸人との秘話まで、余すことなく語ってくれた!
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――危ない実体験の数々が話題になっていますね。
チャンス大城(以下、大城)「『僕の心臓は右にある』にも載せたし『人志松本のすべらない話』(フジテレビ系)でも話した、拉致されて六甲山で一緒に埋められた友達のワダが、この前、特殊トレーラーの仕事で面接受けたらしいです。3人受けて1人しか受からへん面接で、社長がお笑い好きらしくて、ダメ元で『すべらない話に出てたチャンス大城って知ってますか』『おお、よう知ってるよ。六甲山に友達と埋められたヤツな』『その友達って僕なんです』って話したら、『合格』って」
――すごい会社(笑)!
大城「ワダから泣きながら電話かかってきました。『あんとき埋められた話が27年後に松本(人志)さんの耳に入って、笑ってくれて報われた』と。『埋められて良かった』言うてました」
――良かったって(笑)。
大城「埋められたことで傷ついて、ずっとトラウマになってたんですよ。でも松本さんが笑ってくれて、『埋められて良かった』になるんです。未来が変われば、過去は変えられるんですよ」
――本当ですね。
大城「収録で失敗して死にたくなるときがよくあるんですよ。映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のデロリアン号で過去に戻られへんかなって思ったりしたんですけど、違うんです。戻らなくていい。過去は必ず変わるんです。大失敗も、生きてれば『失敗して良かった』って必ず思えるんです」
――ずいぶん哲学的ですね。
大城「実は今月もう特番で3つ大失敗したんです。そう思いたいんです…」
死ぬ気でやってたらどうなったかな…
――なるほど(笑)。でも、過去の辛い経験がこうして本になったわけですからね。大城「いろんな方から連絡もらうんですよ。『死のうと思ってたんだけど、大城さんの本読んで生きる勇気が出ました』みたいな」
――それはすごい!
大城「うつになって自殺を考えた話とか、今でもゾッとしますよ。でも読んでくれた方がなんか感じてくれたなら嬉しいですね。ただ、学校の先生が『読書感想文はこの本で…』とか言ってて、ド下ネタいっぱい入ってるのに大丈夫か? と」
――(笑)。挫折やいじめの話も出てきますが、中学2年のとき、ダウンタウンさんの番組に出たことがきっかけで、14歳で吉本興業の養成所(NSC)に8期生として入られましたね。これは普通にすごい経歴ですよ。
大城「でも、意識が低すぎましたね。高校受験しなきゃとか、周りにも流されてましたし。同期の千原兄弟のジュニアさんは高校辞めて腹くくって入ってきてましたから。僕もあのとき、死ぬ気でやってたらどうなったかなと思いますけど」
――後悔があると。
大城「まぁ、でも僕は才能がなかったっすね。ジュニアさんは僕を『天才や』言うてたんですけど、あのまま行ってても絶対無理でした。ジュニアさんはすごくお笑いの勉強してましたよ。なのに、僕はバイクで走り屋やったり、バンドの追っかけやったり…あんな時間いらんかったよなぁ」
――中学のときにいじめられてて、その境遇を打破するためにお笑いを志そうと思ったそうですが、その情熱がなくなったんですかね。
大城「なくなりましたね。同期のFUJIWARAさんとか面白すぎました。14歳にして自分のレベルの低さを知りました。それでなんとなく離れちゃったんです」
松本人志家の表札をお守りに!?
――そうでしたか。で、定時制高校に入学したと。大城「その前に、3人しか落ちない公立高校を受けたんですけど、落ちました。シンナー中毒の2人と僕だけが。受験のとき、お守り持って行ってたんですけどね。松本さんちの表札を」
――松本さんちの表札?
大城「ダウンタウンが売れだした頃、松本さんの家を見に行ったんです。松本さんがラジオで『貧乏や貧乏や』言うてたんでほんまかなと思って。中学のときに」
――大城さん、ダウンタウンのお2人も兵庫県尼崎市が地元ですもんね。
大城「表札に家族の名前が書いてあって、最後に〝人志〟とあって。表札を触ったらパッと取れたんですね。で、持って帰って」
――(笑)。マジですか!?
大城「俺には松本人志がついてる! ってお守りにしてたんですよ。でも、3人しか落ちない高校に落ちて」
――(笑)。その表札はどうしたんですか?
大城「阪神大震災で家が潰れたんですけど、そのときに瓦礫と一緒に捨てられたと思うんですよ。ジュニアさんがテレビで松本さんに『松本さんの家の表札を盗んだのは大城です』って話したら松本さんが『あいつやったんかー!』って。ほんまはお返しできたらおもろかったんですけどね」
――(笑)。その後再びNSCに、今度は13期生として入られましたね。
大城「高校のときにワダとネタを作り文化祭とかでやりだすんですよ。で、ワダに吉本入ろうって言われて、もう1回やってみるかと」
――8期生だったことは?
大城「誰にも言わなかったです。どうせ誰も覚えてないし、へんな気使われたら嫌やし。野性爆弾、次長課長らと同期でした」
――それもすごいメンツ…。
大城「あとクワバタオハラのくわばたりえちゃん。りえちゃんと初めてお付き合いするんですよ。今頑張らなあかんってときに、恋愛に走ってましたね」
――2回目の吉本だし、今度こそっていう気持ちは?
大城「ありました。でも、NSC卒業してむっちゃ辛かったんです。まったく通用しなくて。劇場のオーディションで5週勝ち抜かなダメなんです。吉本と契約できない」
――厳しいんですね。
大城「なんとなくおれるとか、今みたいに緩くないんですよ。実力なかったらもうさようなら。だから生き残ったメンバーはすごいのばっかりなんですよ」
地下では過激な自慢大会
――大阪吉本が猛者ばかりの理由が分かりました。大城「だから僕、2回吉本で挫折してるんです。ジュニアさんのおかげで今また吉本にいますけど、歴史を振り返っても僕だけらしいですよ。3回目の吉本は」
――(笑)。大城さんにガッツがあるってことですよ。
大城「やっぱ、お笑いが好きだったんでしょうねえ」
――2回目の吉本離脱を機に東京に来られたと。
大城「本当に地下芸人っていう枠があったから助かりましたね。吉本が新日本プロレスなら、ここは電流爆破デスマッチ。危ないネタをするっていうのでお客さんが集まってくれて、成り立ってました。だから言動は過激になっていきました」
――どんなネタを?
大城「いろんな宗教に入って入信漫談やるとか。こんな危ない風俗行ったとか、こんな女性とヤッたとか、1日警察署長じゃなくて1日組長やらせてくれってヤクザに言いにいく企画とか」
――うーん、さすが地下…。
大城「でもお客さんがつくんすよね。もう『過激のナンバーワンになったろう』と思ってました。あと、『田舎でシコろう』もやりましたね。田舎で民家にお邪魔してトイレ借りてVTR撮って」
――いやいやいや(笑)。
大城「誰が一番過激かっていう自慢大会でしたねえ」
――その時代には、お酒でだいぶやらかしたとか…。
大城「夜中に大声で女性器の名前叫んだりとかね。なんか破滅願望があるんですよ。千原兄弟のおかげでせっかく出られた『すべらない話』の打ち上げで、松本さんに絡んでしまってすごい迷惑かけたんです。それで、せいじさんに怒られてお酒を辞めたんです」
――いまは全く飲まない?
大城「はい。飲むとベロッベロになるんすよ。誰かにとんでもないこと言うてしまうかも分からんし、痴漢で捕まるかもしれません。松本さんが読んだら怒るかもしれないですけど、しくじって良かったっすね」
――だから今がある?
大城「『水曜日のダウンタウン』(TBS系)にも呼んでもらえましたしね。ほんと、未来を変えれば『しくじって良かった』って日が来るんですよ」
――胸アツのお言葉ありがとうございます!
(文/牛島フミロウ 企画・撮影/丸山剛史)
ちゃんす・おおしろ 1975年、兵庫県尼崎市出身。89年に14歳でNSCに入学するも中退、しかし94年にNSCに再入学。同級生とコンビを組んでいたものの2年で解散して上京する。そして『南北朝鮮』、『右心臓800』などのコンビを組むが、2003年ごろよりピン芸人として活動。18年3月から吉本興業に復帰し、テレビや舞台などを中心に活躍している。
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