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役人に負担のない年金制度改正~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web

10月18日、政府は国民年金の保険料納付期間について、現行の40年間から5年延長して45年間とする案を議論する方針を固めた。国民年金の目減りを防ぐためだ。

現在の国民年金給付は、満額で月額6万4816円だ。決して十分な金額ではないが、先々には少子高齢化の影響で大きな減額が予想されている。厚生労働省の財政検証を基に計算すると、経済成長も労働力率の上昇もない最悪のケースの場合、30年後の国民年金は3万9000円にまで低下する。さすがにそれでは食べていけない。

実は9月28日付の日本経済新聞が、政府は国民年金給付を少なくとも5万円台に維持する方策を講じると報じており、そのときの財源としては、厚生年金の保険料か財政負担だとされていた。だが、私は大きな違和感を覚えた。

まず、厚生年金の保険料率は労使合計18.3%で固定されており、それを引き上げる制度変更は容易ではない。そして、現実問題としても厚生年金の保険料率をこれ以上引き上げたら、現役世代の生活が成り立たなくなってしまう。また、国民年金にさらなる税金を投入することも、緊縮財政を進める岸田政権が容認するとは、とても思えなかったのだ。

今回報じられたように、国民年金の保険料納付期間を延長すれば、単純計算で生涯に納める国民年金保険料の額が12.5%増える。年金財政がそれだけ潤うとなれば、財政資金投入の必要はない。

ただ、大きな問題点が2つある。1つは60歳で定年を迎えた後に、悠々自適の人生を送ろうと考えていた方々の人生設計を壊してしまうことだ。60歳で現役を引退してから、年金の支給開始年齢である65歳まで退職金と貯蓄を切り崩しながら暮らせば、まだまだ体力が十分あるので、多種多様な趣味を楽しむことができる。

役人たちのずるい“仕掛け”

しかし、国民年金の月額保険料は現在1万6590円で、夫婦2人分なら3万3180円にもなる。将来的にはもっと上がる可能性が高いものの、節約しながら老後を楽しもうとしている人たちには、現在の保険料でもとてつもなく大きな負担となる。

もう1つの問題は、国民年金の負担が一部の人たちに偏るということだ。65歳に達するまで、国民年金の保険料を払い続けなければならない人は、無職の人、自営業やフリーランスの人、パートタイマーなどに限られる。厚生年金に加入するフルタイム労働者は、国民年金を支払う必要がない。厚生年金保険料のなかに、基礎年金相当分が含まれているからだ。

私は、役人がずるい「仕掛け」を考えたなと思っている。60歳だった国家公務員の定年年齢は、すでに延長が始まっていて、2033年には65歳に完全移行する。つまり、国民年金の納付期限が65歳までになったところで、国家公務員は65歳までフルタイムで働けるのだから、その負担に苦しむことがないのだ。

しかも、今回の制度改正の様子からは、さらなる年金制度の「改悪」が透けて見える。それは、国民年金の保険料納付期間について、ゆくゆくは70歳まで延長するということだ。そして、そのときは年金給付も70歳からにする。

この先、65歳までの保険料の負担延長だけでは、給付減には十分に対応できない。しかし、70歳に変更すれば、現行水準以上の給付が可能になるので、最終的な狙いはそこにあるのではないか。

もちろん、そうなったら公務員の定年を70歳まで延長する。そうすれば、公務員の懐は痛まないのだ。

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