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素顔はとても優しい勝新太郎~島田洋七『お笑い“がばい”交遊録』

島田洋七
島田洋七 (C)週刊実話Web

今でも豪快な逸話が語り継がれている勝新太郎さんに、一度だけ会ったことがあるんです。漫才ブームで忙しかった頃、朝のワイドショー番組に出演することになった。

漫才ブームが社会現象になっていて、B&Bが取り上げられたんですよ。テレビ局の廊下を歩いていると、特別な楽屋が用意された1室があった。表には『勝新太郎様』と書いてある。早速、勝さんの楽屋へ挨拶に行きましたよ。

「おはようございます。B&Bです。本日はよろしくお願いします」

ソファに腰掛けていた勝さん。横にはヘネシーとグラス、氷、タンブラーが置かれ、勝さんはヘネシーを飲んでいる。隣に女の人でもいたら、銀座のクラブのテーブルと見間違えるくらいでしたね。俺らを見るなり「1杯どう?」。「まだ朝ですし、そんなにお酒は強くないんです」とやんわりと断りました。そうしたら「漫才師なら朝から酒飲んでパッとやらないと」。まだ朝の8時ですよ。

次に勝さんから「これだけテレビ出てたら年収はいくら?」と聞かれたんです。そのときは、ちょうど俺らの日常を追う番組のカメラが付いて来ていた。口ごもっていると「ハッキリと言ってみな。誰にも言わないから」。「テレビカメラが回ってます。僕らに密着してくれているんですよ」。すると、勝さんは「俺のことも密着しろ」だって。初対面で年収を聞くなんて、面白い人だなと思いましたよ。

アドバイスも意外な言葉

俺が「勝さん主演の映画はほとんど見ています」と水を向けると映画『座頭市』の話題になり、主人公とご本人の人間性が合うともおっしゃっていましたね。他にも、奥さんの中村玉緒さんのお陰で今の自分がいるとも。「俺の女房は大変だよ。でも、俺は自分のパターンを崩したら勝新太郎じゃなくなるからな」と玉緒さんのことを立てていた。

勝さんの周りにはマネジャーさんと俳優の卵のような付き人が4人ほどいました。途中で勝さんがトイレに立ったので、付き人に「普段はどんな方なんですか?」と恐る恐る聞いてみたんです。返答は物凄く優しい方らしく、食事に行っても店の外で待っていろなんて決して言わない。一緒に店に入り同じ物を食べさせてくれるらしい。

そして、「朝からずっと飲んでいるんですか?」と尋ねると、チビチビずっと飲んでいると話してましたね。やはり、豪遊するイメージを崩したくないから、お酒を少しずつ飲んでいるんでしょうね。そうじゃないと体を壊しますから。

トイレから戻って来た勝さんから「番組終わったら飲みに行くぞ」。「今日は夜中まで仕事があるんです」。「よく働くね。ところで税金はいくら払ってるの?」。「それを言ったら年収が分かりますよ」。当時は一定の所得を超えると75%税金で持っていかれたんです。それを知った上で勝さんは「税金は高いからな。お金は貯めておけよ」とアドバイスしてくれましたね。それは勝さんのイメージとは違いました。

最後に「君たちは女にモテるだろ。若いし、人気あるし、いいな。取っ替え引っ替えだろ?」。「引っ替え取っ替えです」と洋八が意味のよく分からないことを返していました。勝さんもポカーンとしてましたわ。

島田洋七
1950年広島県生まれ。漫才コンビ『B&B』として80年代の漫才ブームの先駆者となる。著書『佐賀のがばいばあちゃん』は国内販売でシリーズ1000万部超。現在はタレントとしての活動の傍ら、講演・執筆活動にも精力的に取り組んでいる。

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