社会

「もう、やめい!」狙われた池田組長が思わず制止した“散髪屋襲撃事件”の真相

取り押さえられた襲撃犯(C)週刊実話 無断転載厳禁
取り押さえられた襲撃犯(C)週刊実話 無断転載厳禁

その日、池田組・池田孝志組長(岡山)は地元の岡山市内にある理髪店に向かっていた。池田組長を乗せた防弾車両の後ろには、「2号車」と呼ばれる専属の警備車両がピタリと張り付き、周辺警備を担う組員が乗ったもう1台の車両も続いた。計7〜8人という厳重な警備態勢を敷いての外出だった。

目的地に到着し、お付きの組員と共に池田組長が店内に入ると、黒い乗用車が店先に止まった。車から降りた男は黒いパーカーにジーンズ、作業用の手袋をはめ、険しい表情で店内に足を踏み入れた。その直後、怒声を上げて敵意を示し、お付きの組員に催涙スプレーを浴びせ掛けて威嚇。まさに奇襲だった。

組員と激しく揉み合う最中、もう1人の池田組系組員が店内に入り、異常に気付いて取り押さえようとした途端、男はサバイバルナイフを手に構えた。凶器を向けられた組員は、とっさに刃物の部分を素手で掴んで応戦。床に鮮血が滴り落ち、外から次々に駆け付けた池田組系組員らによって、今度は襲撃した男の血が飛び散った。

そのとき当の池田組長は個室にいたが、飛び交う怒号を耳にして姿を現し、事態を目の当たりにした。

「もう、やめい!」

池田組長の制止によって、組員らは一斉に拳を下ろした。静まり返った店内には組員らの荒い息と、血を流して仰向けに倒れた男の苦しげな呼吸音だけが残った。

池田組長が襲撃を受けた理髪店(C)週刊実話 無断転載厳禁
池田組長が襲撃を受けた理髪店(C)週刊実話 無断転載厳禁

池田組長への襲撃事件が起きたのは10月26日の白昼、午後1時10分ごろのことだった。岡山県警は、殺人未遂容疑で六代目山口組(司忍組長)の五代目山健組(中田浩司組長=兵庫神戸)傘下三代目妹尾組・吉永淳若頭を逮捕。発生直後から業界内外に事件の一報が広まり、「ついに池田組長本人が狙われた」と衝撃が走ったのだ。

山健組・中田浩司組長(C)週刊実話 無断転載厳禁
山健組・中田浩司組長(C)週刊実話 無断転載厳禁

池田組長にケガはなかったが、サバイバルナイフの刃を掴んだ組員は指の神経を切るほどのケガを負い、実行犯の吉永若頭も額部分を裂傷するなどした。

池田組長をナイフで襲撃した妹尾組・吉永淳若頭(C)週刊実話 無断転載厳禁
池田組長をナイフで襲撃した妹尾組・吉永淳若頭(C)週刊実話 無断転載厳禁

「山口組が分裂してから7年以上が経つが、池田組長が直接、襲撃されたのは初めてや。この4日前には、池田組長の親族が住んどるとこに車両が特攻しとったし、次の事件が起きる予兆はあった。けど、まさか本人を狙うとは思わんかった。池田組側が警戒を強化しとるのは当然やったからな。それに、複数人ならまだしも店内に単独で乗り込むなんて、はなから捨て身の作戦やで。吉永若頭は刺し違える覚悟やったんやないか」(関西の組織関係者)

池田組長襲撃事件が起こった理髪店を調べる岡山県警の捜査員(C)週刊実話 無断転載厳禁
池田組長襲撃事件が起こった理髪店を調べる岡山県警の捜査員(C)週刊実話 無断転載厳禁

実行犯たちの“複雑な心境”

しかし、池田組への攻撃は、これで終わりではなかった。理髪店での襲撃事件から8時間後の午後9時15分ごろ、同じ岡山市内にある池田組長のマンションで発砲事件が起きたのだ。

マンション駐車場に止めてあった池田組長の車両を狙ったもので、駆け付けた警察官が複数の弾痕を確認。襲撃事件があったため、警察官が周辺で警戒する中での犯行だった。

発砲されたのは池田組長の車両だけで、発生時には池田組長もこのマンションの室内にいた。犯人は事前にナンバーを知っており、車両の有無で在宅を判断して犯行に及んだ可能性がある。

事件後、岡山中央署に回転式拳銃1丁を持った男が出頭。吉永若頭と同じ妹尾組の福岡一彦本部長で、県警は銃刀法違反の容疑で現行犯逮捕したのだった。

池田組長の車両を銃撃した妹尾組の福岡一彦本部長(C)週刊実話 無断転載厳禁
池田組長の車両を銃撃した妹尾組の福岡一彦本部長(C)週刊実話 無断転載厳禁

「まさか、同日に事件が起きるとは思わんかった。しかも実行犯は同じ妹尾組から出とって、いずれも最高幹部や。山健組が六代目山口組に戻って約1年、本格的に岡山県の完全制圧に乗り出したいうことやな」(同)

県内に本拠を置く六代目山口組の直系組織は、二代目大石組(井上茂樹組長)と三代目杉本組(山田一組長)で、山健組の直系組織も複数が本部を構えている。山健組内では、物部浩久若頭率いる妹尾組が県内で最も勢力数を誇るとされており、池田組と敵対関係になってからは警察当局も衝突を危惧していたという。

山健組若頭で妹尾組を率いる物部浩久組長(C)週刊実話 無断転載厳禁
山健組若頭で妹尾組を率いる物部浩久組長(C)週刊実話 無断転載厳禁

一昨年7月、山健組が神戸山口組(井上邦雄組長)を脱退したのに続いて、池田組も離脱。いずれも独立組織として活動を続けていたが、昨年9月に山健組は分裂終結を掲げる六代目山口組に帰参した。直参として迎え入れられた中田組長は「幹部」に就き、池田組と敵同士になったのだ。

「もともと山健組と池田組は神戸山口組傘下やったし、組員たちもプライベートな面を含めて互いの内情をよう知っとったはずや。妹尾組から立て続けに実行犯が出たのも、池田組と同じ岡山県内に勢力を張っとるから、狙う機会をうかがっとったんやと思うで」(同)

その反面、襲撃事件を引き起こした吉永若頭と池田組長の車に発砲した福岡本部長の犯行には、〝複雑な心境〟も垣間見えるという。

ある地元関係者が話す。

「吉永若頭は襲撃現場にマイカーで乗り付けたそうだが、ナンバーが『岡山』のゾロ目で特徴的だった。見る人が見れば吉永若頭の車だと分かる。店内に侵入した際も、声を上げず客の振りをしていればお付きの組員に怪しまれず、池田組長が個室にいたことを突き止められたかもしれない。そもそも吉永若頭は温厚で、物事を冷静に考えるタイプだった。福岡本部長はイケイケだったが、拳銃を持っていながら部屋の前まで行って撃つことはしなかった」

吉永若頭はマイカーで現場に乗り付けていた(C)週刊実話 無断転載厳禁
吉永若頭はマイカーで現場に乗り付けていた(C)週刊実話 無断転載厳禁

組織関係者らの間では、夜に発砲が起きたにもかかわらず、白昼の襲撃では拳銃が使用されなかった点についても取り沙汰された。

「理髪店に押し入った吉永若頭の凶器がサバイバルナイフやなく、福岡本部長が持っとった拳銃やったら、結果は違うてたかもしれん。まあ、組織内で襲撃の情報を共有するはずもないから、事前に連携なんかできんけどな。2人それぞれに、思うところがあって行動に移したんやないか」(前出・関西の組織関係者)

弘道会ヒットマンの存在

10月28日、岡山県警は池田組と抗争状態にあると認定。妹尾組本部と、同じ山健組傘下の二代目南進会本部、池田組本部と関連施設の使用を制限する仮命令を出した。さらに、池田組を特定抗争指定暴力団に指定して岡山市を再び警戒区域に定めるため、情報収集を進めているという。

「警察には抗争を抑止する目的があるんやろが、警戒区域になれば組員5人以上の集合が禁止されるから、ガードが手薄になりかねん。攻撃を仕掛けるほうにしてみれば襲撃しやすくなるかもしれず、警察の策は逆効果やで」(同)

今後も、六代目山口組が池田組長に矛先を向ける危険性があるとみられているのには、理由があった。

1つは神戸山口組や絆會(織田絆誠会長)といった敵対組織に仕掛けてきた〝切り崩し工作〟が、池田組に対しては難航していたこと。もう1つは、池田組長が〝反六代目同盟のキーマン〟だという点だ。

「神戸山口組と親戚関係を結んでおり、さらに池田組は神戸側を離脱した二代目宅見組(入江禎組長=大阪中央)、絆會とも連携を図っている。〝四社同盟〟の実現は池田組長に懸かっていると言っても過言ではない」(業界ジャーナリスト)

池田組の髙木若頭が射殺された現場(C)週刊実話 無断転載厳禁
池田組の髙木若頭が射殺された現場(C)週刊実話 無断転載厳禁

池田組を巡っては、岡山県で平成28年5月に髙木昇若頭が射殺され、一昨年5月には前谷祐一郎若頭が銃撃された。独立組織となって以降も愛媛県四国中央市、宮崎市、岡山市にある傘下組事務所で、六代目系組員らによる事件が起きてきた。

前谷若頭も銃撃された(C)週刊実話 無断転載厳禁
前谷若頭も銃撃された(C)週刊実話 無断転載厳禁

「組員の引き抜きも思うようにいかず、孤立させるのも難しいとなれば、池田組長本人の意志を変えさせるしかない。今回のような事件が今後も起きかねず、当局は特に六代目側の中核組織・三代目弘道会(竹内照明会長=愛知)の動向を警戒しているようだ」(同)

弘道会は司六代目と髙山清司若頭の出身母体で、池田組若頭射殺事件を含め、分裂抗争ではこれまでに複数のヒットマンが出ている。

総攻撃開始の合図か

「弘道会の中でも、野内正博若頭の野内組が注目されている。今年6月には、野内組組員が井上組長の自宅に17発もの銃弾を撃ち込んだ。このまま岡山での戦況を静観しているとは思えない。弘道会は情報収集にも長けているとされるため、池田組の動きを調べている可能性もある」(同)

では、当の池田組側はどうか。髙木若頭の命を奪われ、その4年後には前谷若頭も撃たれて重傷を負った。今回、無傷だったとはいえ、ついにトップの池田組長が襲撃されたため、怒りはピークに達しているはずだ。

前谷若頭は池田組本部で狙われた(C)週刊実話 無断転載厳禁
前谷若頭は池田組本部で狙われた(C)週刊実話 無断転載厳禁

「池田組による報復の可能性もゼロではない。ただ、あるとすれば武力とは別の形で対抗するのではないか。池田組長は先々を読んで行動に移してきたからだ。2年前に神戸山口組から離脱したときも、すでに今のような同盟を組むプランを口にしていたと聞く。

六代目側が池田組長を狙ったのは、各敵対組織の中心人物だからだろう。神戸山口組と唯一、繋がっているのが池田組長で、池田組と宅見組、絆會の関係も深い。この〝協定〟は六代目側に対抗することが目的のはずで、それを積極的に推し進めてきた池田組長の存在は、六代目側にとって最も厄介なのだろう」(他団体幹部)

また今回の襲撃事件は、五代目山口組(渡辺芳則組長)若頭補佐だった中野会・中野太郎会長が、白昼に京都で襲われた事件を彷彿とさせた。平成8年7月、中野会長が立ち寄っていた散髪屋に、四代目会津小鉄(当時の名称)系組員らが車で乗り付け、窓ガラス越しに拳銃を乱射。中野会幹部が護身用に持っていた22口径の拳銃で反撃したため銃撃戦に発展したが、男2人が胸などを撃たれて倒れ、他の襲撃メンバーは撤退したのだった。

中野太郎会長が銃撃された理髪店(C)週刊実話 無断転載厳禁
中野太郎会長が銃撃された理髪店(C)週刊実話 無断転載厳禁

「池田組長への襲撃事件でも、当初、現場には吉永若頭以外に複数人がいたという情報も出回った。結局、確認できなかったが、いずれにしろ立ち寄り先を知っていたことになる。今の時代、警備の組員が拳銃を携帯することなんてできないし、付いていた組員の多さから、常に池田組側は迎え撃つ態勢をとっていたことが分かる」(同)

妹尾組の最高幹部2人が、実行犯となってまで池田組長を狙った背景には、六代目山口組が年内の分裂終結を目指していたという可能性もある。今回の連続襲撃事件が総攻撃開始の合図だったならば、事件は再び岡山の地で起きることになる。

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