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『花電車芸人 色街を彩った女たち』(角川新書:八木澤高明 本体価格900円)~本好きのリビドー/悦楽の1冊

『花電車芸人 色街を彩った女たち』(角川新書:八木澤高明 本体価格900円)
『花電車芸人 色街を彩った女たち』(角川新書:八木澤高明 本体価格900円)

花電車という言葉には二つの意味がある。何かの記念や祝賀の行事に際し、派手に飾りつけられて出発する、ただし客は乗せない車両。これがいわば表の顔とすれば、裏の意味はずばり女性器を使って見せる芸のこと。見せるだけで男を乗せない、の含みで陰語的に転じたものだろう。

「アルコールランプを股間の前に置き、そこに粉塵を飛ばして火を立ち上らせる、粉塵爆発の原理を利用」した技で、1メートルに及ぶ炎柱を燃え立たせる恐るべき高膣圧の持ち主、ファイヤーヨーコ。絶滅危惧種の代表的彼女への取材に始まり、今なおどこか場末のストリップ小屋で細々と演じ継がれる花電車芸を訪ね歩く著者の筆致に、1970年代、〝人から銭を取る〟芸能の原点を求めて全国を旅し、失われゆく大道の諸芸を『日本の放浪芸』にまとめた小沢昭一の姿が重なる。

「書道をやっている人は“下”で書いてもうまい」

中でも花電車一本で勝負するゆきみ愛の語りが最高で「ラッパをアソコで吹くことができればまずは第一関門合格」(レパートリーを聞かれて)「鍵盤ハーモニカを吹く、吹き矢、タバコを吸う、リンゴを切るといったところでしょうか。習字もやりますが、字は難しい。私は書道をやっていなかったから、下で書いても下手なんです。やっぱり書道をやっている人は、下で書いてもうまいんですよ」…もう圧倒的に面白い。

お客に白か黒かを決めさせて、言われた方の碁石を陰部から出す芸もあったとか。天照大神が天の岩戸に閉じ籠り高天原が闇に包まれたとき、乳房と女陰をあらわに踊って八百万の神々を笑わせたアメノウズメこそがわが国の芸能の始源なら、すべての芸人は歴史性においてストリッパー諸嬢にあだやおろそかな態度はとれぬはず。養成所は参考書に指定すべきだ。

(居島一平/芸人)