岸田首相逆攻勢!? “旧統一教会問題”と“円安放置”で来年度解散決定か
旧統一教会問題という大津波に揺られ、岸田政権の支持率が急速に低下している。野党が追及姿勢を強める中、岸田文雄首相は解散命令請求も視野に入れて、調査権行使の手続きに着手した。これで苦しい局面を打開し、反転攻勢に出ることができるのだろうか。
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「一つ一つ着実に前進していく。これこそ『岸田カラー』だと思っています。厳しい声には真摯に謙虚に向き合わなければいけない」
岸田文雄首相は10月12日、民放のBS番組で、今後の政権運営について率直な思いを吐露した。
「政権寄り」とされる番組にあえて出演して、「この先の政策展開についても宣伝させてもらった」(政府関係者)のは他でもない。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)をめぐる問題や安倍晋三元首相の国葬強行で強い批判を浴び、政権基盤が揺らぎ出しているからだ。
7月の参議院選挙までは順調だった。報道各社の内閣支持率は50%から60%台を維持し、選挙も大勝した。昨年秋の自民党総裁選挙と衆議院選挙に続き、岸田首相が3連勝を果たしたことで、全国規模の国政選挙のない「黄金の3年」を謳歌できると政権内の誰もが思っていたが、そこにつまずきが待っていた。
国民世論の半数以上が反対する中で開催した国葬もさることながら、政権に最もダメージを与えているのは旧統一教会問題だと言っていい。
臨時国会開会から4日後の10月7日、首相は官邸の執務室で、滝沢裕昭内閣情報官から旧統一教会と自民党の関係について現況報告を受けていた。首相は「こんなに浸透しているのか」と話した後、ため息をついて押し黙ったという。
先の政府関係者によると、この日の滝沢氏以外にも、首相には政権幹部からさまざまな報告が寄せられており、深刻に受け止めた事案は数多かった。
一つは細田博之衆院議長の件だ。第2次安倍政権発足後に参院選は2013年、2016年、19年と3回行われたが、いずれも「教会票を比例代表候補に回す差配をしたのは細田氏だった」(同)という。
公安情報として、教団側から党所属国会議員の事務所に「合わせて10人を超える関係者が送り込まれている」ことも報告された。さらに地方においても、教団と深い関係にあるボス県議や長老議員がいるという情報には、首相はことさらに表情を曇らせた。
「岐阜のTや島根のH、福岡のA、熊本のI県議らで、多くが自民党幹部やベテラン議員と深く結びついている。来年春の統一地方選に向けて、首相は『地方議員を含めて完全に教会と関係を断つ』と言うが、絶対に無理だ」(公安情報筋)
現時点で岸田降ろしはない!?
先の政府関係者が厳しい表情で明かす。「例えば先のA県議は、自民党の麻生太郎副総裁に極めて近い。H県議は細田氏ですら頭が上がらない。2人とも引退すると聞いているが、根は深く張っており、関係断絶なんてできるわけがない。だから茂木敏充幹事長は、はなからやる気がないんです」
そして、何よりも首相の頭を悩ませていたのは、辞任した山際大志郎経済再生担当相の問題だった。旧統一教会との深い関係を週刊誌に報道されては、不誠実な態度で認めることを繰り返し、もはや「辞任不可避」との声は自民党内でも多数を占めていた。
実際、山際氏が所属する自民党麻生派では、入閣待機組で当選7回の伊藤信太郎衆院議員が、早くから山際氏の後任に「内定」(麻生派関係者)していた。当初はかばっていた首相も、「早く辞めてほしいと思っていた」(官邸筋)という。
ところが「首相は何も言い出さず、松野博一官房長官も『首切り役』になりたくないのでなかなか鈴を付けなかった」(同)ため、山際氏は閣内に居座り続ける形になっていた。
こうした状況に内閣支持率は大きく下落。10月上旬に毎日新聞と時事通信が行った調査では、いずれも20%台まで落ち込んだ。
だが、首相の政権運営に黄色信号が灯り始めたかといえば、実はそうでもない。自民党内に「岸田降ろし」を仕掛ける動きはほぼ皆無で「極めて静か」(岸田派中堅)なのだ。
「党内が旧統一教会で汚染されており、多くの議員が今は静かにしているしかない状況になっている」(同)
党内最大派閥の安倍派にしても、旧統一教会と接点のある議員が40人近くと最も多い上に、安倍氏の死去に伴う後継体制がいまだに確立されていない。
そもそも派閥から松野氏と萩生田光一政調会長、高木義明国対委員長、世耕弘成参院幹事長と、首相を支える政権幹部を4人も出している主流派であり、「弓を引くなど、あり得ない」(同)という。
今後「ポスト岸田」をうかがうとすれば、河野太郎消費者担当相や石破茂元党幹事長、小泉進次郎元環境相の「小石河連合」が真っ先に浮かぶ。
だが、この3人が動くときに「後ろ盾」になるとみられていた菅義偉前首相が、教団側と密接な関係にあると疑われている。官房長官時代の2017年に、旧統一教会の最高幹部を官邸に招待した疑惑が浮上しているのだ。
教団が所有する放送局が韓国で放送した番組内で、「招待してくれた」と報じていたという内容だ。菅氏は否定しているが、政府関係者によると「面会記録がある。安倍首相へのメッセージを持ってきて、取り次いでいるはずだ」という。
この先数年は円安を放置する
菅氏は、東京地検特捜部が捜査中の東京五輪汚職事件でも、新国立競技場を含む神宮外苑周辺の再開発に絡んで名前が浮上している。このルートへの捜査は年明け以降に本格化するとみられており、当分の間はおとなしくしているしかない。岸田首相は自民党内が「均衡状態」となっていることを奇貨として、政策展開による政権浮揚を図るとともに、政権基盤の立て直しを進めようとしている。まずは旧統一教会に対して、宗教法人法に基づき調査すべく手続きに着手した。
立憲民主党の泉健太代表から「何もしない」との強い批判を受け、ようやく重い腰を上げたわけだが、首相は衆院予算委員会での答弁で、「相談事案で警察につないだ案件もある」と明言。調査の内容次第では、教団の解散命令請求もあり得るとの考えを示唆した。
一連の対応は、かつて舌鋒鋭く安倍政権を批判した弁護士の菅野志桜里氏(民主党などに所属していた元衆院議員で当時は「山尾志桜里」として活動)らが、消費者庁の霊感商法対策検討会で主張した内容を実行に移しただけだ。とはいえ、政権幹部は「山尾は救世主。これで支持率も底を打つ」と期待する。
だが、調査をしたにもかかわらず、解散命令を請求できるだけの法令違反や組織的共謀などがない場合、「逆に教団に活動のお墨付きを与えかねない」として、文化庁は慎重姿勢だという。支持母体の創価学会に問題が飛び火するのを恐れる公明党の抵抗も予想される。
一方、首相が1ドル=150円もの歴史的な円安について、メリットを享受する方向で政策を進めようとしているのも、これまで「無策」(泉氏)だったが故と言える。
首相は10月3日の所信表明演説で「円安メリットを最大限に引き出し、国民に還元していく政策を力強く進めます」と明言した。政府関係者は「デメリットには目をつむり、この先数年は円安を放置するという開き直りの表明だ」と明かす。
11日から海外旅行客の水際対策を大幅緩和したのは、「2022年度内に総額1兆円規模の需要喚起を期待しているため」(同)だ。来年度の後半までには中国を除く旅行客数について、コロナ前の水準にほぼ戻すことが目標だという。
円安メリットの最たるものは、輸出企業の収益上振れだろう。先の政府関係者によると、22年度の税収見込みは約65兆円だったが、「財務省は最大で73兆円まで増える」と試算しているという。8兆円もの上振れで、まさに政権へのボーナスである。
この軍資金は2023年度の防衛費増に回されるとみていい。今年度は5兆4000億円だったが、1兆円は積み増しされる見込みで、24年度以降に税収増や歳出削減が見込めなくなれば、法人税の増税がほぼ既定路線となっている。
既定路線といえば、原発再稼働の加速化や、次世代原子炉への転換もそうだ。関係者は「元経済産業事務次官の嶋田隆首相秘書官が、首相の振り付けをしている。嶋田氏は東京電力と関係が深い。新潟県の柏崎刈羽原発を来夏までに再稼働させるつもりだ」と話す。
ここにも、人任せと状況任せで政策を展開する首相の姿がある。
広島サミット「花道論」も…
そんな岸田首相でも政局には敏感だ。茂木氏の「岸田離れ」を感じ取り、距離を置き始めているのだ。衆院小選挙区の「10増10減」で、首相の意向を原則通りに進めようとする自民党の逢沢一郎選挙制度調査会長についても、茂木氏が交代させようとしたことで続投が決定的になった。逢沢氏は「大宏池会」の一角である谷垣グループ所属だ。首相が接近したのは世耕氏だ。10月3日夜、東京・虎ノ門の「The Okura Tokyo」内のレストランで会食。14日にも西麻布の「中国飯店」で席を共にした。
安倍派に所属する参院議員のグループ「清風会」で会長を務める世耕氏は、同派における「影の実力者」と言っていい。派閥97人のうち実に39人が清風会メンバーであり、結束が固い。世耕氏は安倍派のほぼ4割を握っているも同然なのだ。
その世耕氏と首相は何を話したのか。清風会幹部によると、世耕氏は「安倍派内では萩生田氏と、若手の人望が厚い福田達夫前総務会長がリーダーとして望ましい」と判断。9月27日の安倍氏の国葬に先立ち、3人で今後の方向性をすり合わせていた。
首相にはこの話をして、政権を支えていく考えを伝えたという。
「首相は『よろしくお願いします』と頭を下げ、世耕氏が『安倍さんに頼まれてもいるので、ゆくゆくは萩生田さんに幹事長をやってほしいと思っている』と話したと聞いている」(同)
つまり首相としては、来年夏にも萩生田氏を幹事長に据えて、将来の「萩生田派」への衣替えを後押しすると、世耕氏に「密約」したことになる。そうなれば、世耕氏が次期衆院選に向けてもくろむ、衆院へのくら替えも進めやすくなる。
「首相がどうするかは茂木氏次第だ。茂木氏が本気で支えようとしないなら、幹事長交代だ」(同)
しかし、来夏の時点で首相にそうした力が残っているかは別問題だ。永田町では「統一地方選で自民党が負ければ、がぜん政局含みになる」との見方で一致する。支持率が20%を切れば、5月の広島サミットを「花道」とする退陣論が強まる可能性もある。
首相は依然としてサミット後、来年後半における衆院解散を狙っているとされる。「経済を立て直し、岸田外交も展開する」と周囲に語り、長期政権への意欲は消えていないという。
果たして旧統一教会問題や円安への対策で、活路を開くことができるかどうか。この先の数カ月が、岸田首相にとって勝負どころになるのは間違いない。
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