『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』文藝春秋
『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』文藝春秋

『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』著者:高橋ユキ~話題の1冊☆著者インタビュー

高橋ユキ(たかはし・ゆき) 1974年生まれ、福岡県出身。2005年、女性4人で構成された裁判傍聴グループ『霞っ子クラブ』を結成。殺人等の刑事事件を中心に裁判傍聴記を雑誌、書籍等に発表。主な著書に『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』など。
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――2018年に大阪・富田林署から脱走した犯人は、なんと自転車で各地を転々としていたことが分かり、世間を驚かせましたね。


高橋 勾留中だった彼は弁護士との接見後、面会室のアクリル板を蹴破り、外に出ました。富田林署は約1時間半以上、彼の脱走に気付かなかったんです。その間、当時の留置担当だった巡査部長が何をしていたかというと、内規で禁止されているスマートフォンを留置場に持ち込み、アダルト動画を閲覧していました。面会人の入退室を知らせるためのブザーは電池が抜かれたままで、作動していませんでした。その後、彼は盗んだ自転車で日本一周の旅人になりきり、四国を回り、本州に戻って西に向かいますが、48日後に山口県周南市の道の駅で万引きGメンに捕らえられました。


――実際に会ってみて、どのような人物でしたか?


高橋 最初は週刊誌の取材でコンタクトを取りました。面会の際は、とても礼儀正しい好青年という印象を抱きました。一方で、手紙では私のネームバリューを気にして、記事になっても影響力がないのではないかと言われたり、保釈保証金の支援を頼まれたりもして、対面の時とは違う顔が垣間見られましたね。

保釈中の逃亡は罪に問われない

――日本では、保釈された者が逃走することは罪に問われないというのは本当ですか?

高橋 起訴後に保釈された者が逃亡することは、日本では罪には問われません。例えば日産自動車元会長のカルロス・ゴーンは、保釈後にレバノンに出国しましたが、逃走罪には問われないです。否認を続ける被疑者や被告人に対して、身柄拘束を続けながら自白を強要するような対応は「人質司法」といわれます。これが国内外の批判を受け、保釈を拡大する方向に進んでいるようですが、逃走防止のシステムが整っているとは言い難いです。保釈条件を守らなければ保釈保証金は没収になりますが、金が惜しくない被告人にとってはあまり意味がありませんね。


――GPS端末の活用については、どのようにお考えでしょうか。


高橋 海外には、保釈後の被告人に対するGPS端末での監視が可能な国もあり、また保釈逃亡罪が定められている国もあります。日本でもゴーン元会長のレバノン逃亡騒動後、保釈した被告人の逃亡防止策としてGPS端末を装着できるようにする答申案を、法制審議会の部会がまとめました。個人のプライバシーに介入する手段であるため、運用は慎重になされるべきだという意見があり、私もそう感じています。


(聞き手/程原ケン)