『線は、僕を描く』 監督／小泉徳宏 出演／横浜流星、清原果耶、細田佳央太、河合優実、矢島健一、夙川アトム、井上想良、富田靖子、江口洋介、三浦友和 配給／東宝

皆さん、前回私が紹介した『ラム』はご覧になられましたか？　実は今週、『ラム』の答え合わせの回にしたかったのですが、この連載は新作紹介のページ。今も『ラム』に夢中な私だけど、芸術の秋にピッタリの作品を見つけました。

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真っ白な紙に、筆と墨だけを使って描かれる水墨画。私は絵心がないから上手に描けないけど、古くからある日本の絵や文字って、眺めているだけで心が落ち着きます。今回、紹介する『線は、僕を描く』を見て、私は〝すぐに何かをやりたい〟〝行動を起こしたい〟と思ってしまいました。

水墨画は技術だけでなく、心で描くダイナミックさと繊細さが入り混じっているのがたまらない。そして、今年一番活躍したといっても過言ではない俳優、横浜流星さんが主演で物語をさらに盛り上げる。『流浪の月』で魅せた、あの忘れられない演技が今作でも冒頭から見られる。とある水墨画を眺めて、ゆっくりと涙を流す。それはなぜなのか…。物語にどんどん引き込まれていきます。

また、出演陣も流星さんをはじめ、清原果耶さん、江口洋介さん、三浦友和さんたちみんなが、線で繋がっています。流星さん演じる大学生の青山霜介が運命の出会いをしたのは、水墨画の巨匠・篠田湖山（三浦友和）。弟子にならないかと声を掛けられたことで、何かがゆっくりと動き出す。次第に水墨画の奥深さにハマっていき、それを通して〝生きる〟ということへの大事な要素も含まれていて、人間関係に1つの輪を作り上げていきます。

白と黒の世界が色鮮やかに

水墨画の技術で驚かされたのは、清原果耶さん演じる千瑛が花を描いたシーン。花のまわりを黒で表現することに、ハッと息を呑んだ私。〝なんて美しいのか！〟と。さらに「竹は墨汁を三層に入れた筆を走らせる」、つまり、竹を描く際は墨汁を三層に含ませた筆を走らせるという説明に、思わず〝私にも描ける！〟と、勝手に妄想を膨らませてしまいました（笑）。

白と黒で描く世界がこんなにも色鮮やかに感じられるのは、心がこもっていて、描いた人の人生も見えるから。ちなみに、映画に登場する流星さんの部屋にある練習した水墨画の数々は、本当に彼が描いたものだそうです。1年というスパンで他の仕事をしながら練習を重ねたらしく、先生が手を添えてくれる時は上手くいくのに、離した瞬間から上手くいかないなど…かなり苦労したのだとか。

〝水墨画を描きたい！〟誰もがそんな気持ちになる、ほんわかとした1本です。

LiLiCo 映画コメンテーター。ストックホルム出身、スウェーデン人の父と日本人の母を持つ。18歳で来日、1989年から芸能活動をスタート。TBS『王様のブランチ』、CX『ノンストップ』などにレギュラー出演。ほかにもラジオ、トークショー、声優などマルチに活躍中。