企業経済深層レポート (C)週刊実話Web
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製造業「国内回帰」でニッポン再興〜企業経済深層レポート

昨年から今年にかけ、生産拠点を海外から日本国内に移転する、いわゆる「日本回帰」の動きを強める企業が続出している。


経済産業省関係者が背景を、こう解説する。


「日本企業の国内回帰は、コロナ禍、米中対立、ロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー高騰、円安…といった複合的な要因によるものです。例えばコロナ禍以後の中国はコロナ患者を1人も出さない『ゼロコロナ政策』を頑なに続けています。コロナ患者が出ればロックダウンとなり、中国の日本工場はストップ。製品の完成が遠のく異常事態、サプライチェーン(原材料調達から製品製造、販売まで)の危機です。それを避けるべく、最初から最後までを国内で作り上げる日本回帰が増えているのです」


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また円安の影響で、中国や東南アジアよりも、国内の方が安価で製造できるようになっている。


確かに90年代から日本企業は海外に工場を移設し、日本製品の販売を加速させてきた。アパレル系ならば、生産コストの安い中国や東南アジアに工場を建設し、1円でも安く生産する。自動車ならば、アメリカなど現地に工場を造り、地元の雇用を増やしつつ輸出を友好的に伸ばしてきた。


それはひとえに日本製品を世界に広めるための戦略だった。しかし、その大きな流れが少しずつ変わりつつあるのだ。

国内生産が割安になる

民間信用調査会社、帝国データバンクが今年4月、ロシアによるウクライナ侵攻に伴う仕入れへの影響調査を実施した際、悪影響への対策を尋ねたところ、約8%の企業が「国内回帰を検討」と回答したという。

では具体的にどこのメーカーがどんな動きをしているのか。経営コンサルタントが解説する。


「筆頭は俳優の吉沢亮さんのCMで知られる生活用品大手のアイリスオーヤマです。オーヤマは中国の大連に工場を建設し、主に日本向けの衣装ケースなどプラスチック製品を生産しています。しかしオーヤマは、この大連工場から約50種類の製品の生産を日本国内に移す計画で、すでに国内3工場に中国からプラスチック製品の金型を移動し、準備を整えています。さらに約100億円を投じ、岡山県内に2025年操業の家電新工場を建設する予定です」


オーヤマのこうした転換は、人件費、輸送費、材料費をトータルで見ると、日本国内で製造した方が2割ほど安くなるためだという。


一方、ロボット製造でも国内回帰の動きが始まる。ロボット製造関係者が明かす。


「セイコーエプソンといえばプリンターや時計などで知られていますが、実は産業用ロボットでも有名。特にスカラロボット(水平多関節ロボット)では世界トップシェアを誇ります」


スカラロボットは、水平にスピーディーに動き、組み立てやピッキング、箱詰めなどに利用されている。焼き鳥の串刺しやおにぎりの成形にも利用されるなど、汎用性の高いロボットとして重宝されている。


「エプソンは中国・深圳と長野に工場を持ち、年間約1万5000台のスカラロボットを生産しています。これまでの生産量は日本1に対して中国4、主力は中国でした。これを日本国内での生産量を現在の5倍に引き上げ、生産台数も25年までに3万台以上に増やす計画です」(同)

国からの補助金制度も利用できる

エプソンが日本国内回帰に大きく舵を切ったのは、米中貿易摩擦の影響だという。アメリカは、中国から輸入する産業用ロボットに追加関税を課すようになったため、中国発では税金がかかってしまう。エプソンは日本国内での生産にシフトし、追加関税を回避したい思惑もある。

音響機器メーカーのJVCケンウッドは、22年1月から国内向けのカーナビ『彩速ナビゲーション』の生産を、インドネシアなどから長野工場への全面移管を開始した。自動車メーカー関係者が言う。


「上海工場で進めていた、国内向けカーナビゲーションの生産も、段階的に長野工場へ移管します。今後の目標は現在の5倍となる50万台規模の生産体制。製造の現場では、人の手からロボットをメインに切り替えていくようです」


国内回帰へと大きく舵を切っているのは、国の後押しもあるからだという。金融系シンクタンク関係者が指摘する。


「経産省は日本の産業が世界情勢でズタズタになることを懸念し、『サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金』という名目で計約5000億円を準備しています。これも各企業が国内回帰を強める一因になっている」


半導体メーカーのルネサスエレクトロニクスは、閉鎖中の甲府工場を電気自動車(EV)向けの半導体工場とし、2年後を目途に再稼働させる。その際、資金の一部に経産省の補助金を利用する方向だという。


現在の円安と世界情勢の不安要素は、日本企業にとって50年に一度の試練ともいわれている。


しかし、この試練を機に国内回帰企業が増えれば、かつての〝世界一のモノづくり大国〟を取り戻し、日本が再び経済成長するビッグチャンスと見る向きもある。日はまた昇るのか?