『アフター・ヤン』
監督・脚本・編集/コゴナダ
出演/コリン・ファレル、ジョディ・ターナー=スミス、ジャスティン・H・ミン、マレア・エマ・チャンドラウィジャヤ、ヘイリー・ルー・リチャードソン
配給/キノフィルムズ
見た目が人間とまったく変わらず、知的な会話もこなす「テクノ」と呼ばれる家庭用AIロボット「ヤン」。そのヤンとまるで家族のように寄り添いながら穏やかに暮らす、あるアメリカ人家族。ごく自然な日常ですが、本作は近未来を描いたSF映画です。
ボーダレスな世界を象徴するように、夫のジェイクは白人、妻のカイラは黒人、養女ミカは中国人。ミカが「兄(グァグァ)」と呼び、慕うヤンは、見た目はアジア系です。
家庭用ロボットというと奇抜な設定を想像するかもしれませんが、本作の世界観は変わるものと変わらないものが共存していて、確かにこうなるのかもしれない、というリアリティーがあります。
変わらないものは民族性を大事にした暮らし。変わるものは今やスマホが当たり前になったように、人型ロボットやクローン、ハンドルすらない自動運転の自動車などがありふれた日常になっている世界です。
奇しくも、最近テスラが人型ロボットの試作機を発表しましたね。もちろん、まだまだ機械然とした動きでしたが、イーロン・マスクは将来、車より安い価格で売り出すと発表していました。
ロボットが故障すると腐敗する!?
一方、本作のヤンは、東洋思想まで語れるほど、高度にプログラミングされています。この、東洋文化がインストールされているロボットという切り口は新しく感じました。これも本作の監督が小津安二郎監督を信奉する韓国系アメリカ人なことと関係あるでしょうね。
ある日突然、ヤンが故障して動かなくなってしまうことから物語は動きます。早く修理しないと「腐敗」してしまうと焦る家族。しかし、中古で購入した店は閉店。ヤンは果たして元に戻るのか。そうこうしているうちに、ヤンの体内にはあるパーツが埋め込まれているのが分かり、科学的にはあり得ないロボットの感情が記録されている可能性が…。
とまあ、こんな展開に「星2つ」だなと思いながら見続けていたんですが、見終わった後に「星1つ」に下げてしまいました。
理由は、あまりにストーリーに起伏が乏しく、どうにもモヤモヤしたから。
例えば、妻とヤンが親密に話しているシーンの後、これで人間とロボットの禁断の愛が始まる伏線かと、次の展開をあれこれ想像して見ていたのに、ことごとく回収されることなく終わってしまう。いくら監督が小津映画の信奉者だからといって、ねぇ。
いや、ご覧になる方によっては、坂本龍一の音楽が流れる静謐な世界観が好きという方もいらっしゃるかも。他の人の『アフター・ヤン』を見たアフターの境地を、伺いたいものです。
やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。
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