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バブル崩壊のタイミング~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web

日本銀行の黒田東彦総裁は9月26日の会見で、「年明け以降、物価を押し上げている要因が弱くなるため、消費者物価上昇率が2%を割るのは確実だ」と話した。2%というのは、日銀が掲げる物価目標で、来年それを下回るとの見通しは、金融緩和を正当化するためのものだとして、メディアはほとんど取り上げなかった。

しかし、私はこの見通しは正しいと思う。そして、来年中に消費者物価上昇率がマイナスになる可能性も、十分あると考えている。いまの物価高をもたらしている原因の3分の2は、原油を中心とする資源高で、残りの3分の1が円安だ。

まず、資源高のほうを見てみよう。ニューヨーク原油価格のピークは、6月5日の1バレル=120ドルだった。しかし9月末は、81ドルと33%も下がっている。まだデフレが続いていた2018年半ばと、さほど変わらないところまで下がってきているのだ。原油価格の下落はエネルギー価格に連動するから、電気、ガス、ガソリンなどあらゆる価格が下落していく。

小麦価格も5月17日の1ブッシェル=12.7ドルのピークから、9月末には9.0ドルまで下がっている。29%の下落だ。その他、トウモロコシや食用油、金などほとんどの国際取引商品の価格が、今年の春、夏のピーク値から、数割ほど値下がりしているのだ。

では、なぜ日本では10月から、6700品目もの食品が値上げされたのか。それは、国際価格の変動が、日本の小売価格に反映されるまでには、タイムラグがあるからだ。

すでに株式から債券への逃避が始まっている

例えば、小麦は政府が輸入して、過去半年分の平均調達価格を民間への売り渡し価格とする。電気料金も、燃料費が転嫁されるのに3カ月程度のタイムラグがある。

そこから食品メーカーが実際に値上げに踏み切るまでの時間を考えると、国際商品価格の上昇から小売価格上昇までには、半年程度のタイムラグが生じてしまうのだ。

だから、現在起きている国際商品価格の大幅下落が小売価格の引き下げにつながるのは、半年ほど先になるだろう。ただ、このまま円安が続くと、値下げは小幅なものにならざるを得ないが、その円安も長くは続かないと思う。

現在、アメリカは消費者物価の抑制に向けて、急速な金利引き上げを続けている。すでに投資資金の株式から債券への逃避が始まっているが、そうした動きは、長期金利が5〜6%に達した頃に一気に進むに違いない。米国株の過去の平均利回りが6%台だからだ。

株式からの資金逃避は、株価の暴落を引き起こす。そのとき、米国は一転して金融緩和に向かうだろう。そうなると、日米金利差が縮小して、為替は円高に向かうのだ。

バブル崩壊のタイミングを正確に予測することは不可能だが、私は来年前半の可能性が高いとみている。つまり、いまの物価上昇を国民が我慢しなければならないのは、半年程度の短期決戦ということになる。

だったら、その期間の手当として、消費税の減税か、国民全体を対象に給付金を出せばよいのだが、財政緊縮派の岸田文雄総理にそんな気配はまったくない。

来年春からは、コロナ禍で行われた無担保・無利子融資の有利子化が始まり、そこで中小や零細企業の倒産が続出する。岸田政権は生産性の低い企業など、つぶれて構わないと考えているのかもしれない。

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