政府は昨年12月18日の経済財政諮問会議で、2021年度の実質経済成長率を4%とする政府経済見通しについて議論した。4%成長できれば、日本経済はコロナ前の水準を取り戻すことができる。
民間議員は、その見通しを実現するために、21年度を「新型コロナを克服し、東京五輪・パラリンピックの実行を含め、世界レベルでの経済社会活動の再生の年」とすることを提言した。民間議員が打ち出した具体的な政策の中には、東京一極集中の是正といった納得性の高いものもあるのだが、全体としては多くの疑問符がつく。
第一の問題はV字回復の実現性だ。明確なシナリオは描かれていないが、民間議員は「ワクチン接種の迅速かつ計画的な実施」を求めているから、ワクチンで新型コロナを制圧しようと考えているらしい。
しかし、医療関係者にワクチン接種が始まるのは、早くても2月からで、高齢者や基礎疾患のある人への投与がそれに続き、広く一般国民への投与が始まるのは、6月以降になるのではないか。
しかも、ワクチン接種は強制ではなく任意だ。国内最大規模の調査会社「クロス・マーケティング」が昨年10月に行った意識調査では、「すぐにでも接種したい」が13%、「様子を見てから接種したい」が55%、「あまり接種したくない」が15%、「絶対に接種したくない」が6%となっている。
集団免疫を獲得するためには、70%の国民がワクチン接種を受ける必要があるから、仮にワクチンが高い効果を持ったとしても、早い段階でコロナと決別できるというシナリオは、非現実的だろう。
経済復活の踏み台になりそうな地方企業
経済財政諮問会議のもう一つの問題は、ポストコロナの経済体制に関して、構造改革路線を継承している点だ。民間議員が提出した資料によると、「民間主導の経済成長を高めるため環境整備の強化」が必要であり、「民主導のカギは、金融資本強化、コーポレートガバナンスの強化」だとしている。
ちなみに、新浪剛史議員(サントリーHD社長)の提出した資料によると、金融資本の強化とは「戦略的株式投資に向けた銀行出資規制の緩和・地銀再編等」を意味するのだという。
表現は難しいが、要するに弱った企業に資本注入し、従業員のリストラを行い、優良資産も売り払ったうえで、スカスカになった本業をスポンサーに売り飛ばすというハゲタカファンドの常套手段だ。
さらに、そこに地銀再編を加えれば、いま地銀の緊急融資でコロナ禍をなんとか生きながらえている地方企業が、次々にハゲタカの餌食になる。まさに小泉純一郎内閣時代に、竹中平蔵氏が断行した不良債権処理の再現だ。
国立感染症研究所が発表した新型コロナウイルスのゲノム分子疫学調査によると、昨年7月以降の検体すべてが、3月に流入して東京を中心に広がった欧州型だった。
つまり、感染の第2波も第3波も、東京からの人の移動によるものだ。菅義偉総理は12月19日の講演で、年末年始のGoToトラベルを中止したことを陳謝したが、謝罪しなければいけないのは、10月1日に東京をGoToトラベルに加えたことではないのか。
コロナ禍によって経営が苦境に立たされている地方企業は、いわばもらい事故に遭ったようなものだが、その結果、地方企業がハゲタカファンドの食い物になり、来年度の経済復活の踏み台になるのだろう。
その踏み台の上で東京五輪・パラリンピックを開催しようというのが、政府のビジョンなのだ。
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