直撃インタビュー・村上ショージ〜伝説の『スベリ芸人』〜
「ドゥーン!」や「何をいう〜! 早見優〜!」などのギャグで知られる芸人の村上ショージさん。近年は「スベリ芸」の第一人者的に語られるほか、還暦を過ぎてなおR-1グランプリやキングオブコントに出場するなど、意欲的に仕事に精進している。衰え知らずの芸風の原点に迫る!
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〝スベリ〟を芸に昇華させた唯一無二の芸風を持つ男、村上ショージ。関東地方では年に一度、『明石家サンタの史上最大のクリスマスプレゼントショー』(フジテレビ系)で姿を見せ、視聴者に「ああ、今年も終わりか」という妙な安心感をもたらすことでお馴染みだが、主戦場は関西の番組と、精力的に立つ舞台。今年芸能生活45周年を迎えた村上と、東京・新宿の「ルミネtheよしもと」の出番を待つ楽屋で対面。
「今日は『蛙亭』と『オズワルド』が出演するんですね」と水を向けると「話題の2人な。芸人同士なんて、俺は絶対無理や」と、本番前とは思えぬ自然体で話し始めた。
笑いの道を志したのは、吉本新喜劇に感化された小学5年生のとき。中学卒業後、定時制高校に通いながら日立造船因島工場で溶接工として働きつつ、芸人になる機会をうかがっていた。
村上ショージ(以下、村上)「当時は親父の体調が悪く、寿命も長くないのも分かっていたし、兄貴たちも猛反対。『親父が死ぬまでは、親孝行として芸人の世界には入るべからず』と言われていたんです」
初舞台で“どじょう”を丸飲み!?
1977年に父親を見送ると、「好きにせい」と兄から許可が出た。すぐに電話を入れたのは、憧れの吉本興業だった。村上「入りたいんですけど、言うて。面接行って、『次の日から裏方で来なさい』と言われて、なんば花月で新喜劇のセットを作ったり、雑用係をしたね。給料? ないよ。アルバイト代として月なんぼかもらえとったけどね」
当時は大阪で一人暮らし。仕事後は、朝まで飲食店やスナックで働き、寝る間もなくなんば花月へ…を繰り返した。ほどなく漫談家の滝あきらに弟子入りし、身の回りの世話も業務に。
村上「昼になったら500円もらって、安い飯屋に行って120円を浮かして、それでタバコを買ったりしてたな」
芸を学んだ覚えはないが、師匠から「おまえの初舞台を取ってきた」と言われた5日後、急に京都花月劇場に立つことになった。
村上「ネタの作り方も、何をしていいのかも、何が面白いのかも分からなかった。変なことをやったらウケるかな、という安易な考えでどじょうを丸飲みしました。客にウケるわけでもなく、『キャー!』言うてね。オチは『どじょう、出します。明日の朝、うちの便所に見に来てください』言うて」
一部始終を見て憤慨したのは、明石家さんまの師匠である笑福亭松之助。すぐにさんまに連絡を取り、「おまえ、村上と知り合いやろ!? あいつ、どじょう飲んどるぞ! 注意しとけよ!」と報告した。さんまは腹を抱えて笑ったという。
村上「さんまさんからお茶やご飯に誘ってもらったり、親しくしてもらってたよ。お世話になったし、腐れ縁というか、今でも仕事さしてもらってますからね」
当時のさんまはすでに東京に進出し、『オレたちひょうきん族』(フジテレビ系)などで絶大な人気を誇っていた。そして、1986年のこと。
村上「ビートたけしさんのFRIDAY襲撃事件があったでしょ。タケちゃんマンの企画ができなくなった代わりに、さんまさんが俺とMr.オクレと前田政二を呼んで『何人トリオ』が出来たんです。『ラブユー貧乏』という曲を歌う貧乏ネタでコーナーを作ってもらって、意外とウケて評判が良かったね」
“スベった”ツッコミが定番に
ひょうきん族人気が後光となり、ファンと営業が急増。さんまとディスコに繰り出すと、顔パスでVIP席に直行できた。村上「もうすごいよ。女の子がさんまさんのところにパーッと行くから、俺らは、言うたら網の目から落ちたおこぼれでも拾って食べたろかいな、という感じでしたね」
だが「さんまさんあってのラブユー貧乏。そんなに人気がもつわけじゃない」と冷静だった。
村上「ギャラもあってないような、やっすいギャラやったし。でもその頃はバブル期、飲みに行くと『テレビ見てますよ!』と声をかけてくれる社長さんがおってね。ご飯や飲みに連れて行ってくれたり、生活費をくれたり。スポンサーですよね。免許を持っていないのに車をプレゼントしてくれたこともあって、『付き人に運転させればいいでしょう』とかね。そういう人たちの応援があったからこそ、今の自分があるんちゃうかな」
『ひょうきん〜』では「ドゥーン!」「何をいう〜! 早見優〜!」などのギャグも浸透。各地で披露するギャグを、共演者から「スベった」と突っ込まれるやり取りがテレビで定番化するようになった。
村上「スベったあとのひとことをどう言うかを一番大事にしていましたね。自分の間を大事にして、最後のひとことでウケさすのが狙いやった」
それが、〝スベリ≠おもんない〟の所以であり、だからこそ素人が手出し厳禁の領域なのだ。
そして2007年6月7日、ついに現在のスベリ芸が確立された。現在でも芸人やお笑いファンの間で「伝説」と語り継がれる『徹子の部屋』(テレビ朝日系)の村上ゲスト回――。
村上「冒頭で(黒柳)徹子さんが、『ウケなくてもスベってもスベリ芸というものを開発』と紹介したんです。わろてもうたね。スタッフが黒柳さんに『この人はスベリ芸の開発者なんですよ』と伝えたのか知らんけど。収録中にギャグをやるのを『あ、そうなの』、『ほう、なるほど』と、ずーっと糠に釘でした」
村上「手応えはありました。ただ準決勝1回目で寛平さんが舞い上がってしまってね。なかなか台詞を言わへんなと思てたら、向こうも俺の台詞を待っているし、お互い『なかなか言わへんな』と思っているところで、ドカーンと大爆笑。帰り道は『もう終わりやな…』というテンションでした」
2日目はタイムオーバーとなり準決勝敗退となったが、「次も誰かいい人がおったら出ます。『豚とひつじ』になっているかもしれへん」と意欲的だ。
そして近年は「腐れ縁」と前述したさんまの相方的存在として、長寿ラジオ番組『MBSヤングタウン土曜日』(毎日放送)でさんまのツッコミ役を担い、共演するハロプロアイドルをバックアップする。
村上「さんまさんは事実が1%だけの原型がほとんどない話もするからね、そこはちゃんと注意せんと(笑)。俺くらいしかツッコめへんから。それと、ハロプロの子がちょっとでも面白くなればいいかなと。面白いと思うのは『つばきファクトリー』の岸本ゆめのちゃん。自分でギャグノートを作っていて、すごいブワーッと書いてあるんでチラッと見たら、全部普通の言葉やったわ(笑)。やっぱりね、おもろいおもんないは別として、頑張っている子っていいですよね」
「頑張っていることの大切さを人に伝えたい」と熱く話す一方で、自身に矛先が向くと意外なクールさを見せる。
村上「67にもなるとね、目をギンギラギンにして『45周年のイベントも頑張ります!』みたいなのはないですよ。お金を払ってくれるお客さんに、楽しい気分で帰ってもらえたら、それだけでいい」
好きな番組はドキュメンタリー。バラエティーはおろか、地上波はほぼ見ない。
村上「作りモンは好きやないんです。昔から、テレビよりも街でおもろいおっさんを探すほうが楽しみやったね。たとえば軽トラの荷台に積んだダンボールに犬5〜6匹入れてるおっさんとか。『自分も生活大変そうなのに、犬5〜6匹飼うてるんや…』思うたらおもろいやん」
ふいに楽屋のドアが叩かれ、スタッフが「あと10分で出番です」と声をかける。そしてやはり自然体でゆっくりと立ち上がるのだ。
村上「もうこの年になるとね、緊張なんてせえへんよ。ウケなかったらウケないで、普通に帰ってこられるしな」
(文/有山千春 撮影/丸山剛史)
■公演情報=10月15日(土) 村上ショージ芸歴45周年ライブ 「〜細木先生!75歳で売れるんですか?僕〜渋谷公演」@ヨシモト∞ホール
村上ショージ 1955年、愛媛県出身。定時制高校に通いながら溶接工として働いていたが、テレビで見た明石家さんまに衝撃を受け、吉本興業所属の漫談家・滝あきらに弟子入り。その後、舞台やテレビなどでの活躍を経て、『オレたちひょうきん族』(フジテレビ系)にレギュラー出演し、数々のギャグで全国区の有名芸人となる。「スベリ芸」を世間に広めた代表格として、有名芸人からも絶賛されている。
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