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見栄っ張りのしぶちん総理~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web

岸田文雄総理が決断した安倍晋三元総理の「国葬」に、国民の過半数が反対していることで、政権が窮地に陥っている。岸田総理は国会の閉会中審査で、「国民一人一人に弔意の表明を強制するものではなく、喪に服することも求めない」と述べている。しかし、そうなると内閣・自民党合同葬と今回の国葬の間にどんな差があるのか、分からなくなってくる。

合同葬でも海外要人の来日は可能であり、これまでも米国大統領を含む多くの要人が来日しているから、弔問外交に国葬が必要だということにはならない。交通規制や警備の問題も、国葬と合同葬の間に差はない。それでは、なぜ岸田総理が国葬にこだわったのか。

私は岸田総理が「見栄っ張りのしぶちん」だからだと思う。国葬にすれば、岸田総理は葬儀委員長として振る舞うことが可能になり、歴史に名を刻むこともできる。また、葬儀費用も国葬なら全額国費負担だが、合同葬だと自民党が半分負担しなければならない。1億円余りの負担は国家にとってさほどのものではないが、自民党にとっては大きな負担となる。だから、岸田総理は自民党総裁として、できるだけ負担を小さくしようと考えたのではないか。

そして、見栄っ張りのしぶちんは給付金にも表れた。岸田総理は追加の物価高対策として、住民税非課税世帯を対象に1世帯当たり5万円の給付金を支給することを決めた。イギリスやドイツが物価高対策で国民生活の支援を打ち出す中で、プライド上、日本も立ち上がらないわけにはいかないということだろう。

日本経済は“デフレ”継続

ただ、住民税非課税世帯の数は1600万程度とされており、5万円を給付しても財政負担は8000億円にすぎない。一昨年の特別定額給付金は、国民全員を対象に10万円の給付を行い、その予算は12兆円だったから、今回の給付金の予算規模は特別定額給付金のときの15分の1である。

これでは経済効果がほとんどない上に、何より不公平だ。物価高で生活に苦しんでいるのは、住民税を支払っている国民も同じだからだ。そもそも、物価高騰対策として国民生活支援に振り向ける予算額は、イギリスが5兆円、ドイツは9兆円である。国際的に見ても岸田政権のしぶちんぶりは、際立っているのだ。

岸田総理の見栄っ張りのしぶちんは、金融引き締めにも明確に表れている。日本銀行が自由にコントロールできる資金供給量を示す「マネタリーベース(現金+日銀当座預金)」の前年比伸び率は、金融緩和を進めた安倍政権時代は平気で30%を超えていた。その後、菅政権になって徐々に伸び率は下がってきたが、それでも1年前は13.5%の伸びだった。

ところが、この8月は▲2.5%と、ついに資金供給量を前年比マイナスにした。国内生産の物価を示す「GDPデフレータ」もマイナスになっている。つまり、日本経済はデフレが継続しているにもかかわらず、金融引き締めに乗り出す。その理由は「金融の正常化」という見栄のためだ。財政の引き締めも、財政の健全化という見栄のためだ。

旧統一教会問題で自民党安倍派が力を失う中で、岸田総理は着々と政権基盤を固めている。だから、岸田政権の財政・金融同時緊縮は継続し、日本経済は恐慌に向かう可能性が高い。結局、岸田政権が倒れるのは、日本経済が倒れた後になるのではないだろうか。

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