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北朝鮮『金正恩の犬野郎』の落書き!飢える国民の怒り…餓死者も出るあきれる惨状

Olleg
(画像)Olleg/Shutterstock

北朝鮮で金正恩総書記を批判すれば、まず重罪は免れない。にもかかわらず8月上旬、中国と国境を接する両江道の道都・恵山市で、内容は不詳ながら、またもや政権を批判したと思われる落書きが発見された。

同市は中朝間の密貿易拠点であるため、生活水準は首都の平壌並みだが、それでも市民は深刻な食糧難にあえいでおり、体制への不満が鬱積していることがうかがえる。

「昨年12月には平壌中心部にあるマンションの外壁に、〈金正恩の犬野郎、人民がおまえのせいで餓死している〉と書かれているのが見つかり大騒ぎになりました。正恩氏は昨年末に開かれた朝鮮労働党全員会議で、農作物の生産増大を重要課題とする『新しい社会主義農村建設綱領』を打ち出しましたが、すでに初年度からつまずいています」(北朝鮮ウオッチャー)

この綱領の目玉は10月10日の労働党創建記念日に合わせ、北東部の咸鏡南道の道都・咸興市にある「連浦空軍基地」を大規模な温室野菜農場に変えることだった。

「基地一帯に825棟の温室野菜農場と、ここで働く住民の住宅970軒、および公共建物130軒余りを建設していることが、米戦略国際問題研究所の報告書から判明しています。同基地は北朝鮮の新型ミサイル試験発射場でもあり、昨年3月には『KN23改良型(北朝鮮版イスカンデル)』とみられる短距離弾道ミサイル(SRBM)2発を日本海に向けて発射しました。このミサイルは韓国全域を射程圏に収めますが、そんな重要拠点を農場にしなければならないほど、食糧事情がひっ迫しているのです」(同)

国民も我慢の限界か…

9月9日に建国記念日を迎えたことで、平壌では前後して重要会議が目白押し。朝鮮中央通信によると、4〜5日に災害防止に関する会議が開かれた際、正恩氏は「人民の生命の安全よりも大切なものはない」と訴えた。

続いて7〜8日に開催された最高人民会議(国会に相当)でも、正恩氏は「人民の生活改善に取り組む」と食糧増産を最優先課題に掲げたが、具体案は何ら示されなかった。

そもそも北朝鮮の穀物生産量は、1980年代前半までは右肩上がりで増加していたが、「苦難の行軍」と呼ばれる90年代の飢餓時代に激減。その後、ある程度まで回復したものの増減を繰り返しており、いまだに過去の水準を回復できていない。正恩氏の完全な失政である。

「毎年のように食糧不足に陥り、農村部では餓死者さえ出るというのが北朝鮮の惨状です。90年代からまったく進歩が見られないとはあきれるばかりで、さすがに国民も我慢の限界かもしれません」(アジア外交の専門家)

北朝鮮の農業は、体制や思想由来の構造的な欠陥を抱えている上に、国連制裁や相次ぐ大規模自然災害の影響でもはや立ち行かなくなっている。今春も深刻な干ばつに見舞われ、次いで度々の豪雨に襲われた。

さらにコロナ対策下での移動制限によって、農村部への労働力動員が順調に行われず、田植えまで遅れてしまった。その結果、コメの収穫量は大幅な減少が予想されている。

「北朝鮮当局は『このままでは国内で1年間に必要とする食糧のうち、半数近い約5カ月分が不足する』と分析しています。こうした予想に基づき、偽造パスポートを使って海外各地に派遣した工作員にまで、計画分(ノルマ)を外貨ではなくコメやトウモロコシ、大豆などの穀物で納めるよう命じました」(同)

インドの民間経済団体に救済求める

コメが流通していない北朝鮮の市場では、それに代わる小麦やトウモロコシ、ジャガイモなどの価格が高騰している。国民の不満が蓄積し、このまま放置すれば体制の不安定化につながりかねない状況だ。

背に腹は代えられない北朝鮮は、8月末、インドの民間経済団体に「洪水で農作物が被害を受けた」と食糧の無償支援を求めた。これは米政府の海外向けメディア『ボイス・オブ・アメリカ(VOA)』が、船舶関連の文書から知り得た情報で、9月下旬にインドからコメ1万トンを輸入することになったという。

北朝鮮は中国からも、7月にコメ1万トンを緊急輸入している。面子を重んじる正恩氏が恥を忍んで食糧援助を乞うのは、よほど急を要しているからだ。ところが、その本音は「食」だけではなかった。

「北朝鮮は9月8日、ついに『核戦力政策に関する法令』を発布しました。これには核兵器を使用できる状況として5つの条件や事態が挙げられていますが、要は米国に求められた核放棄を拒否するために、理屈をこねまわしているわけです。北朝鮮が核を放棄することは絶対になく、非核化の交渉もあり得ないと宣言したのも同然です」(軍事アナリスト)

新冷戦時代のキーマンに躍り出た感のある正恩氏だが、それでも海外の工作員にまで「食べ物を送れ」と指令を出すようでは、体制の限界は見えている。すでに断末魔を迎えつつあるということだ。

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