エンタメ

米株投資の今後の見通し~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web

タレントの厚切りジェイソン氏の著書『ジェイソン流お金の増やし方』(ぴあ刊)が、50万部(電子書籍を含む)を超える大ヒットとなっている。ジェイソン氏の主張はとてもシンプルで「毎月の余裕資金は、すべて米国株全体とリンクする投資信託に投資すべき」というものだ。

なぜ、そうすべきなのか。ジェイソン氏は、預金をしていてもお金は増えない、だから投資が必要だと説く。投資先は世界経済を実質的に支配するアメリカが一番よい。ただ、アメリカのどの企業が成長するのかは、分からない。だから、アメリカ経済全体を買える「インデックスファンド」を買うべきだというのだ。

ジェイソン氏の投資法が多くの日本人を惹きつけている理由は、過去の実績だ。ジェイソン流の投資をした場合、20年の期間で見れば、どの時代でも大きなリターンを得ることができていて、その平均利回りは6.4%に達するという。10年間で、投資資金がほぼ2倍近くに増えたことになる。

ただ私は、いま米国株に投資をするのは、とても危険だと考えている。米国株がバブルを起こしているからだ。バフェット指数やシラーPERといった株式の割高指標は、現在の株価が本来の株価の2倍から3倍の水準になっていることを示している。そして、アメリカの株価はすでにバブル崩壊の過程に突入している。今年1月4日のニューヨークダウは、3万6800ドルだった。それが9月2日には、3万1318ドルと15%、5482ドルも下落しているのだ。

高い短期金利がつけば国債に移行か

ところが、世界中から米国株を買う資金は集まり続けていて、それがバブル崩壊を緩やかなものにしている。なぜ、世界からお金がアメリカに流れるのかというと、米国株が下落してもドルが高くなっているため、海外投資家は損失をかぶっていないからだ。例えば、ドル円相場は1月4日に116円だったが、9月2日は140円となっている。その結果、1月4日にニューヨークダウを買った日本人は、円建てでは9月2日に2.8%の利益を得ているのだ。

ただ、私はいまの米国株投資には、非常に大きなリスクが重なっていると思う。1つは円高のリスクだ。アメリカの景気が失速すれば、FRB(連邦準備制度理事会)は利下げに向かう。そうなれば日米金利差が縮小して、為替は円高に向かうのだ。

FRBのパウエル議長は、目的を達成するまで利上げを続けると言明している。アメリカの消費者物価上昇率は現在8.5%だ。それを目標物価の2%まで引き下げるためには、とてつもない利上げが必要になり、私は5%を大きく超える短期金利が必要だと思う。ただ、そうした金融引き締めは、確実にアメリカ経済の息の根を止めるだろう。

そして、もう1つのリスクは、そうした高い短期金利がつけば、長期金利も連動して上昇するから、アメリカの長期金利は6%以上になる可能性が高い。そうなったら、株式を売って米国債に乗り換える投資家が続出する。

私は「長期金利が何%になったら、国債を買うことを考えるのか」と厚切りジェイソン氏に直接聞いてみた。彼の答えは「実際に買うかどうかは別にして、これまでの株式投資の平均利回りである6.4%になったら、選択肢として考える」とのことだった。来年には6%台の長期金利があり得る。本格的バブル崩壊は、来年になるのではないか。

あわせて読みたい