(画像)Markus Wissmann/Shutterstock
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ゴルバチョフ元大統領『ソウル五輪』参加“背徳行為”に北朝鮮は深い憎悪

8月30日、ロシアの前身である旧ソビエト連邦最後の最高指導者で、初代大統領を務めたミハイル・ゴルバチョフ氏が、入院先のモスクワの病院で死去した。91歳だった。


ゴルバチョフ氏は「ペレストロイカ(再構築)」を掲げて、停滞するソ連の民主化に着手。1989年12月には米国のブッシュ大統領とマルタで会談し、東西冷戦を終結させた。その功績により翌年にノーベル平和賞を受賞するなど、同氏は歴史の道筋を劇的に変えた政治家として高く評価されているが、これは西側の視点にすぎない。


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「欧米諸国はゴルバチョフ氏の死を悼んで大きく報道しました。しかし、北朝鮮はかねてからペレストロイカに不快感を抱いており、『プロレタリア階級の利益を犠牲にして、帝国主義の要求に迎合した』と痛烈に批判しています」(国際ジャーナリスト)


旧共産圏に大変動をもたらした急進的改革も、北朝鮮にとっては「社会主義への背信行為」であり、ゴルバチョフ氏を「国際共産主義の裏切り者」と酷評するのが常だった。


「ソ連が自滅したことで、北朝鮮は国家イデオロギーの根幹に関わる大問題に直面しました。しかし、現実に目をつぶり『ゴルバチョフというとんでもない指導者のせいでソ連は崩壊したが、われわれには偉大な将軍様がいるから大丈夫』という都合のいい解釈を生み出したのです」(同)

東西和解の象徴“ソウル五輪”

そもそも北朝鮮の歴史は、赤軍(ソ連軍)の大尉として帰国した金日成主席が、米国を後ろ盾とする韓国に対抗し、ソ連の傀儡政権を樹立したことに始まる。以来、両国の関係は紆余曲折を経てきた。

中でも北朝鮮にとって衝撃的な出来事は、同盟国とみなしていたソ連が豹変し、1988年のソウル五輪に参加したことだろう。


79年に発生したソ連のアフガニスタン侵攻に抗議し、米国や日本など西側陣営は80年のモスクワ五輪をボイコット。ソ連は報復措置として84年のロサンゼルス五輪をボイコットし、北朝鮮もこれに呼応した。


「ところがゴルバチョフ政権は4年後、ソウル五輪に大規模選手団を派遣しました。大韓航空機を爆破してまでソウル五輪を阻止しようとした北朝鮮は、これを裏切りとして憤慨したのです」(北朝鮮ウオッチャー)


結果的にソウル五輪は東西和解の象徴として盛大に開催され、韓国の国際的地位を高めることになった。一方、北朝鮮の孤立がより鮮明になったことは、その後の歴史が証明している。


しかも、ゴルバチョフ氏の北朝鮮に対する「背信行為」は、五輪参加にとどまらなかった。1990年6月には北朝鮮の頭越しに、韓国と国交を樹立したのだ。


「当時の北朝鮮は、全貿易量の60%をソ連に依存していたばかりか、対外債務の40%もソ連のものでした。ソ連が韓国と国交を樹立したことにより、建国以来40年以上も培ってきた経済関係にくさびが打ち込まれた。ソ連の友好価格による原油供給も大幅に減少し、経済が下降線をたどる原因をつくったのですから、北朝鮮が〝ゴルバチョフ憎し〟となるのは至極当然のことだったのです」(同)

長くは続かなかった蜜月関係

1991年12月にソ連が崩壊すると、北朝鮮は継承国のロシアといっそう険悪な関係となった。2011年12月に金正恩体制が発足した当時も両国はいがみ合いを続けていたが、互いに国際社会から孤立したことで14年に緊張関係は改善された。

その後、プーチン大統領は北朝鮮に石油輸出や食糧支援を行い、ソ連時代からの累積債務110億ドルのうち9割を帳消しにしている。


「プーチン氏の温情処置には理由があります。14年3月にロシアがウクライナ領クリミアを併合した際、これを非難する国連決議で北朝鮮は反対に回り、ロシアを擁護しました。そのお返しだったのです」(前出・国際ジャーナリスト)


しかし、両国の蜜月関係は長く続かず、2015年4月に北朝鮮の対ロシア窓口だった玄永哲人民武力相が粛清されたことで、交流は再び途絶えることになる。


「玄氏はロシアから帰国するなり、公開銃殺されました。ロシアに兵器の無償供与を求めたが応じてもらえず、正恩氏の不興を買ったとの説もあります。この後、北朝鮮の親ロシア派は一掃されました」(同)


現在、北朝鮮は軍事的に大きな転換期を迎えている。これまで秘密裏に、ウクライナから核・ミサイル技術を導入してきたが、そのコネクションが途切れた今は、プーチン氏に〝おねだり〟するしかないのだ。


9月2日、韓国の金聖翰国家安保室長は、米国のサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)、日本の秋葉剛男国家安全保障局長とハワイで3者会談を開いた後、「北朝鮮が7回目の核実験を実施した場合は、対応は過去と明らかに異なるだろう」とけん制した。


北朝鮮はより強力な制裁に直面するリスクを冒してでも、プーチン氏にすり寄っていくのだろうか。