森永卓郎 (C)週刊実話Web
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原発か太陽光かエネルギー政策の行方~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

8月24日、岸田文雄総理は「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」で、突然、原子力発電所の運転期間の延長に加え、新増設や建て替えを検討する方針を明らかにした。福島第一原発の事故以降、民主党政権も、自公政権も、原発の新増設を表明したことは一度もなかった。


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岸田総理自身も、一昨年の自著で「将来的には再生可能エネルギーを主電力化し、原発への依存度は下げていくべきだ」と述べている。


岸田総理は、この大きな方針転換について、ロシアのウクライナ侵攻などで電力需給が逼迫している現状を受けて、自ら政治決断をした結果であると強調した。


私は、温室効果ガスの排出を抑制し、国際情勢に振り回されない安定電源を得るための主力は、太陽光発電と原子力発電の二者択一だと考えている。ただ、原子力はあまりに問題が多い。


まず、永続性のあるシステムなのかということだ。使用済み核燃料の中から、まだ使える燃料を取り出して再利用する「核燃料サイクル」はうまくいっていない。放射性廃棄物の最終処分場は、候補地のめどさえ立っていない。まるで出口のないトンネルを走るようなものだ。


もう1つの問題は事故を起こしたときに、莫大で長期間の被害が生ずることだ。実際、福島第一原発の事故から11年が経過したにもかかわらず、いまだに溶け落ちた燃料デブリの回収がなされておらず、周辺の人口は回復していない。われわれ自身も、復興特別所得税を25年にわたって払い続けている。

国は原発を選んだということ

一方、太陽光発電のメリットは大きい。メガソーラーが森林破壊を進めているという批判はあるが、森林を破壊せずとも、太陽光発電を普及させる方法がある。それは、屋根を利用することだ。日本では、屋根に太陽光パネルが設置されている割合が1割にすぎない。つまり9割の屋根は空いているのだ。

大ざっぱな話をすると、屋根に15畳ほどの太陽光パネルを設置すれば、4キロワットの発電設備が設置できる。それだけで、年間の電力消費に相当する発電が可能になるのだ。もちろん、太陽光は夜間と冬場に発電量が落ちるから、そのときは電力会社から電気を買わなければならない。ただし、蓄電池を用意すれば、自家消費率は大幅に高まる。


太陽光発電は、家計の助けにもなる。太陽光発電を推進する東京都の小池百合子知事によると、標準的な戸建て住宅に4キロワットの設備を設置した場合、年間9万2400円の電気代が節約できる。設置費用は92万円程度なので、10年間で元が取れるという。パワーコンディショナーは10年ごとの交換が必要だが、太陽光パネル自体は20年を超えても稼働し続けるから、設置後10年たてば、家計はほとんど電気代を負担しなくて済むようになるのだ。


東京都が住宅用の太陽光発電に大きな補助金を出している一方で、国はすでに補助金を廃止している。つまり、国は太陽光ではなく、原発を選んだということなのだ。


原発を取るのか、太陽光を取るのかは、国の形を決める基本的な政策だ。ところが、政府はこの問題をめぐって一度も国民の審判を受けていない。だから、岸田総理は、いますぐ衆議院を解散して、総選挙をすべきだろう。


エネルギー政策を隠したまま、原発大国への道を歩むのは、国民への大きな裏切りだ。