『百花』
監督/川村元気
出演/菅田将暉、原田美枝子、長澤まさみ、北村有起哉、岡山天音、河合優実、長塚圭史、板谷由夏、神野三鈴、永瀬正敏
配給/東宝
この映画は、もしかしたら自分の身に起こる可能性があることとして、家族が話し合うきっかけになるかもしれません。
認知症で記憶がどんどん薄れ、2つの思い出が繋がってしまったりする母・百合子を、原田美枝子さんが素晴らしく演じています。息子・泉には菅田将暉さん。自分の母親の変化に気付きながらも、しっかりしてほしいと冷静に優しく接する努力をする。しかし、その我慢も限界に。母親に対して、「なんで忘れるんだよ! こっちは忘れたくても忘れられない!」と叫ぶ泉。実は子供の頃、泉の記憶に残るとても悲しい出来事がありました。しかし、母はそれを忘れているのです。
私は、母親って子供にとっては母でしかなく、過去に恋愛していたことなんて考えたこともなかった。私の母が精神的に少し変わり始め、ちょっと不思議な発言や行動をしたことを改めて振り返り、「昔に戻ってたのかなぁ…」とふと思いました。
謎の言葉に母の秘められた思い
海を懐かしそうに見つめる百合子と泉でも、話す思い出はまったく別のもの。百合子がたびたび口にする、「半分の花火、見たい」の謎の言葉は一体なんなのか。でも、この会話があったからこそ、母の秘められた思いが後に理解できる。この言葉の本当の意味に気付いた時、作品にちりばめられた伏線が、すべて回収されていきます。
私がこの作品で一番共感したのは、泉の妻・香織を演じた長澤まさみさんの立場です。旦那さんのお母さんが認知症だと、〝嫁〟としての接し方はとっても難しい。必死になってはいけないし、何も協力しないのも、もちろん良くない。我慢の糸が切れても、やはり、どこか距離感が実の親子と違っていたりします。
そして、百合子を施設に送った泉と香織のバスの中での会話が衝撃的。実は香織は妊娠していて、これから2人は親になる。これって本来、とっても幸せなことで、当然、映画でも美しく描かれる出来事ですが、なんと彼女は妊娠が判明した時の気持ちを少し否定的に話すのです。短いながらも、かなりインパクトのあるシーン。このやりとりは斬新だと、私は驚きました。同時に、男性だったら、どんな反応をするのかが気になります。
これは、皆さんにも関係する物語。親が、妻が、もしくは自分自身がこうなるのかもしれません。記憶とはとても不思議なもの。他人事とは思わないで、今のうちに親子の素敵な思い出をたくさん作れると良いですね。
LiLiCo
映画コメンテーター。ストックホルム出身、スウェーデン人の父と日本人の母を持つ。18歳で来日、1989年から芸能活動をスタート。TBS『王様のブランチ』、CX『ノンストップ』などにレギュラー出演。ほかにもラジオ、トークショー、声優などマルチに活躍中。
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