企業経済深層レポート (C)週刊実話Web
企業経済深層レポート (C)週刊実話Web

続くファミレス大苦境に「すかいらーく」100店閉鎖〜企業経済深層レポート

洋食の「ガスト」、中華の「バーミヤン」などを傘下に持つファミリーレストラン業界トップの「すかいらーくホールディングス(HD)」(東京)=2021年売上高2646億円・3088店=が来年をめどに約100店舗を閉店すると公表し、業界に波紋を広げている。


【関連】人気沸騰の“変わり種自販機”〜企業経済深層レポート ほか

フードアナリストが解説する。


「22年12月期上半期の決算会見で、すかいらーくHDの谷真会長から公表されました。閉店するのは『ガスト』を中心とした赤字店舗です。大量閉店は、すかいらーくの経営の厳しさをうかがわせます」


今年の当初予測では、売上高は3360億円、営業利益100億円、当期純損益40億円としていた。ところが今回の決算で修正され、売上高は約200億円減の3120億円、営業利益がなんと20分の1の5億円、当期純損益は20億円の赤字となったのだ。


飲食業界関係者がこの決算の背景を解説する。


「すかいらーくHD全体の売り上げは19年12月期に3754億円ありましたが、コロナ後の21年12月期には2646億円と約3割も落ちました。営業利益もコロナ禍が始まった20年12月期はマイナス230億円の大赤字。しかし21年12月期は182億円の黒字に転換し、コロナ前のほぼ9割の水準にまで回復しました。コロナ禍の中、無駄な廃棄やメニューの見直しを図るなど、相当な努力をした成果でした」


前述の今年の当初予測売上高3360億円という数字の根拠にもなっていた。


「これが完全に反転し、最悪の流れになりました。激変の要因は、ウクライナ情勢や円安による原油や原材料などが一気に爆騰したインフレショックです」(同)


もちろん円安やエネルギー高騰対策で、それなりの手は打っている。7月には関東圏を中心に「バーミヤン」や「ガスト」でメニューの値上げを敢行した。

続く物価高騰に値上げはやむなし

例えば「バーミヤン」では、『本格焼餃子』(6個)を274円(税込価格。以下同)から関東のみ285円に。『担々麺』は699円から関東のみ714円に。人気の『アンニンドウフ』は219円から関東のみ230円に。『キリン一番搾り生ビール』は494円から関東・その他地域で549円に。全体で11円〜55円の値上げだ。

飲食店関係者が言う。


「この値上げで落ち着けば良かったのですが、その後も物価上昇の勢いは増すばかり。しかもメニュー価格アップの影響で、一部消費者からは生活防衛策として外食を控える傾向も出始めるありさまです。そこにコロナ第7波が追い打ちをかけました。こうした流れが100店舗閉鎖への決断につながったようです」


ファミレス経営の厳しさは「すかいらーくHD」に限った話ではない。業界第2位の「サイゼリヤ」(埼玉県吉川市)=21年売上高1265億円・1553店=も苦境続きだ。経営コンサルタントが言う。


「サイゼリヤは20年8月期に約38億円の営業損失、21年8月期も22億円の営業損失で、2期連続の赤字となりました。22年も第1四半期で早くも2億円の営業損失を出し、今年の決算も相当厳しいと見られています。『安くて美味しいものを』というサイゼリヤ精神を原因に挙げる声も少なくありません。外食産業では原価率30%前後が健全経営のボーダーライン。サイゼリヤの原価率は35〜40%前後で経営を圧迫しています。ここをどうクリアし、サイゼリヤ精神を継続できるかです」

生き残るための思い切った発想

九州を中心に展開する業界第4位の「ジョイフル」(大分市)=21年売上高476億円・571店=も22年6月期の連結決算は、純利益こそ前期比41%増の25億円だったが、時短営業や店舗数減少が響いて売上高は2%減の466億円と決して安泰ではない。

こう見てくるとファミレス業界は今後も軒並み厳しい経営が続きそうだ。しかし、手をこまねいていては「インフレショック」や「コロナ」に業界は淘汰されてしまう。


飲食業界関係者が語る。


「すかいらーくHDは大胆に不採算店をつぶすとともに、今後はこのインフレとコロナ禍でも好調とされているデリバリーやテイクアウトにさらに力を入れていくようです。デリバリーは昨年暮れ500億円で全体売上の17%まで伸びているだけに期待は大きい」


フードアナリストも言う。


「コロナで崖っぷちまで追い込まれたジョイフルも約200店舗を閉店し、危機回避に動きました。そこから攻めに転じ、人気ユーチューバーのヒカルとタッグを組み、『ヒカル考案 冗談抜きで旨いハンバーグ』などの新商品をネットや店舗で販売。これが累計400万食超えの大ヒットで、ジョイフルの窮地を救いました。ジョイフルは今後も思い切った発想で新地平を切り開いていきたいようです」


ロードサイドの店舗で家族揃って食事する、という既存のファミレスビジネスモデルがコロナ禍と急激な物価高で壊れつつある。もはや企業の大小は無関係。アイデアに満ちた攻めの姿勢で、消費者のハートと財布をわしづかみできたファミレスのみが生き残ることになるようだ。