Ⓒ2022『グッバイ・クルエル・ワールド』製作委員会
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やくみつる☆シネマ小言主義~『グッバイ・クルエル・ワールド』/9月9日(金)より全国公開

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期待のハードルを上げるだけ上げて見ましたら、これがまぁ呆れるほどのドンパチ合戦。最初に浮かんだ疑問は、「なんで、この映画を撮ろうと思ったんだろう?」。


何か突き動かされるものがあってのことだろうと思われますが、よほどのドンパチ好きが企画したのだろう、というのが自分の結論。そうとしか思えない。


昔のチャンバラ映画のようなもので、理屈じゃないと思うんですよね。ですから、ドンパチでカタルシスを発散できる方にはよろしいんじゃないですかね。とにかく、全員がよう撃ってます。


終始ドンパチが応酬する中で、本作の見どころというのは、やっぱり役者の演技だと思うんですね。それぞれが、昔のヤクザ映画のような、ただ凄みを利かせただけの演技じゃない。

普通のオッサンが冷酷な殺し屋に

例えば、三浦友和。どこかのインタビュー記事で、自分の童顔を気にして「年重ねてからどうやって演技プランを練っていこうか」と考えていると、語っていたことを記憶しています。北野映画などでも悪役をやったりしていますが、本作ではまた別の顔が見られます。

ごく普通の、ブツブツとぼやいてばかりいるオッサンが、冷酷な殺しもやってのけるという、三浦友和ならではの悪役の新解釈。これが自分には一番面白かった。


他に目を転じ、個性派俳優たちの演技に三浦友和くらいの「本作ならでは感」が出ていれば、と少々残念に思うわけです。主役である西島秀俊も、脇を固める大森南朋も、総じてこのところの既視感のある演技に終始しています。


本作のチラシには「裏切り者は誰だ?」という惹句が大きく入っていますが、いわゆるミステリーのような、味方が誰で、敵は誰だ?と疑心暗鬼になる、というストーリーでもありません。ヤクザ集団とギャング団との対立構造は、ほぼ固定されています。


何かに似ているぞ、とハタと気付いたのは、アメリカ映画におけるメキシコの描かれ方。メキシコに失礼じゃないかと憤りたくなるほど、強調された無法地帯っぷり。あの世界観に似ています。


図らずも、日本の全国民が安倍元首相銃殺の瞬間を目にしてしまった現在。ドンパチに妙なリアリティーを感じて、無邪気な感情移入ができにくくなっているかもしれませんね。
やくみつる 漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。