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蝶野正洋『黒の履歴書』~『IWGP女子王座』新設

蝶野正洋
蝶野正洋 (C)週刊実話Web

躍進を続ける女子プロレス団体「スターダム」が戦略発表会を開き、新たに「IWGP女子王座」を新設すると発表した。IWGPといえば、新日本プロレスの象徴ともいえるトップタイトル。初代IWGPヘビー級王者はアントニオ猪木さんで、俺も第22代王者としてベルトを巻いた、歴史と伝統のあるタイトルだ。

プロレス団体は、それぞれタイトルを持っているから、それが団体を超えて制定されるのは珍しいことなんだけど、新日本プロレスもスターダムも親会社が同じブシロードなので実現したんだろうね。

俺が最初にこの話を聞いた時は、悪くないアイデアだと思った。いま女子プロレスは世界的に盛り上がっているし、スターダムが海外進出するためにも、IWGPの知名度というのは大きな武器になる。

それにベルトやタイトルは、あくまでも会社のもの。「チャンピオンシップ」というのは選手を競わせて、客を呼ぶために会社が作るものだから、そこはビジネスとしてどんどん動かしていけばいいと思う。

ただ、プロレスファンからの反発も多かったという意見を聞くと、それも分かる気がする。やっぱり、新日本プロレスをずっと見てきたファンには「IWGP」の4文字に思い入れがあるだろうからね。

ブシロードの木谷高明オーナーも後に「説明不足だった」と語っているけど、ファンや選手にとって大事なタイトルを雑に発表してしまったという部分で印象が悪かったことは否めない。

昔といまのコメント出し方の違い

まず、IWGP女子という企画があるということをブチ上げてファンの反応を伺いつつ、猪木さんに認定してもらうとか、そういうステップを踏めばよかったんじゃないかな。結果的にベルトの価値を高めることになるし、そこからドラマも生まれていくからね。

ネットが発達して、こうした戦略発表会のような会見もファンに直接伝えられるようになったけど、その意図を正しく伝えることは難しいのかもしれない。

先日、俺は内藤哲也選手と『Number』という雑誌で対談したんだけど、テーマは「マイクアピール」と「言葉」だった。内藤選手は、「コメントを出す時は言いたいことがブレないように、どのメディアに対してもストレートに気持ちを伝えるようにしている」という。俺らの時代はまったく逆。コメントを出す時は、テレビ用、新聞用、専門誌用と、各媒体に合わせて喋る内容や表現を変えて、しかも見出しになるように話を盛っていた。

ファンも、俺のさまざまなコメントを照らし合わせて、蝶野は本当はこう思ってるんだな、ということを想像してくれていたと思う。

けれど、いまはコメントを変えると、ファンから「こいつは信用できない」と思われてしまうらしい。発言の前後を切り取られて、言葉だけが独り歩きしてしまうこともある。

どちらがよい、悪いということではないけど、いまのメディアも、それを受け取るファンも余裕がないな、とは思うよね。

IWGP女子王座も、発表の仕方が悪かったかもしれないが、こうしてさまざまな意見が出て話題になったというだけで、本来は成功なんだよ。賛否両論で語り合うというのもプロレスファンの楽しみ方だからね。

蝶野正洋
1963年シアトル生まれ。1984年に新日本プロレスに入団。トップレスラーとして活躍し、2010年に退団。現在はリング以外にもテレビ、イベントなど、多方面で活躍。『ガキの使い大晦日スペシャル』では欠かせない存在。

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