漫才ブームの頃、B&Bが司会を務めるクイズ番組があったんです。今のクイズ番組のようにスタジオ収録ではなく、東京の郊外、たとえば、川越や東村山などの文化会館を借りての公開収録だった。その番組の前説を担当していたのが、片岡鶴太郎でした。
俺も吉本で若い頃、食えなくて苦労したから「飯でも食いに行こうか?」と鶴太郎を誘ったんです。家の近所にあった行きつけの寿司屋へテレビ局からもらったタクシー券で向かった。店に入り「鶴太郎は何にする?」と聞くと「何にしましょうかね」と悩んでいる。初めて食事に誘ってもらった先輩の前で、いきなり高いネタは頼めないでしょ。値段も書いてないしね。
俺の中でカニは高級なイメージがあったから「カニ食うか?」。「いいんですか? お願いします」。毛ガニとタラバ、そして、酒と寿司何貫か注文して、その日はお開きになった。
約2カ月後、鶴太郎をまた同じ店に誘った。そして「カニを食え」と勧めると、「この前、美味しかったのでまたお願いします」。その日もカニの他に寿司と酒を飲んで、帰りの車代を渡しました。その後、鶴太郎も売れ始め、『オレたちひょうきん族』に2人とも出演するようになった。その収録後、数年ぶりに2人で四谷の寿司屋へ行って、カニを食べさせたんです。
「やっぱり、蟹蔵さんはかっこええわ」
鶴太郎はボクシングやヨガ、画家と色んな分野で活躍しているでしょ。10年以上前、鶴太郎の個展が福岡の三越で開催される記事を新聞でたまたま読んだんです。久しぶりに連絡してみようとしたけど、寿司屋へ行った頃は、携帯電話なんてない時代だったから連絡先が分からない。そこで所属事務所に電話して俺の携帯番号を教えると、鶴太郎から電話が掛かってきた。
当日、俺が講演先の名古屋から福岡空港へ帰ってくる時間と鶴太郎の個展が終わる時間が一緒だった。そして、寿司屋へ行ったんです。すると、またも「何にしようかな?」と鶴太郎が悩んでいるから「カニ食おうか」と振ると、鶴太郎が腹を抱えて笑う。
「何がおかしいねん?」
「洋七さんにご飯に連れてってもらうのは30年間で今日で5回目ですよ。必ず寿司屋ですし、必ずカニ食うかと言うじゃないですか。なんでカニなんですか?」
「美味しいし、エエもんに見えんねん。タコよりカニのほうが高いやろ。せっかくご馳走するなら美味いもんのほうがエエやろ」
俺らのやり取りを聞いていた店の大将も、お客さんも爆笑してましたね。
さらに数年後、佐賀で鶴太郎の個展があった。驚かせようと思って終わる頃に楽屋へ行くと「佐賀だから来るかもしれないと思ったんですよ。でも、今日はカニ食べれません」。すぐ博多へ移動しないといけないスケジュールだったようです。
「洋七さんはいつも寿司屋でカニ食えと言いますけど、寿司屋にカニがない時はどうするんですか?」
「カニがなければエビや。よう似とるやろ」
この数日前、品川駅の新幹線ホームで市川海老蔵を見かけたんです。俺の近くにいたおばさん3人組が「やっぱり、蟹蔵さんはかっこええわ」と名前を間違えていた。だからカニとエビは似てると思ったんです。
島田洋七
1950年広島県生まれ。漫才コンビ『B&B』として80年代の漫才ブームの先駆者となる。著書『佐賀のがばいばあちゃん』は国内販売でシリーズ1000万部超。現在はタレントとしての活動の傍ら、講演・執筆活動にも精力的に取り組んでいる。
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