日本全国☆釣り行脚 (C)週刊実話Web
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『エゾウグイ』北海道由仁町/ヤリキレナイ川産~日本全国☆釣り行脚

北海道の河川には、カモイウンベ川やオチカバケ川などカタカナ表記の川が多く見られます。これはご存知の方も多いかと思いますが、アイヌ語が由来となっているからでありまして、カタカナ表記の河川に限らず、札幌、小樽、室蘭などなど、多くの地名もアイヌの言葉が由来となっております。こうした文化がしっかりと残っているのって、なんか素敵ですね。


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そんな中で、ちょっと気になる名前の川があります。その名は〝ヤリキレナイ川〟。なんとも言えない名前の川ですが、アイヌ語で「片割れの川」あるいは「魚の住まない川」という意味だそうです。北海道の川といえばマス類の豊富な渓流釣り天国、たとえマス類がおらずとも、定番外道のウグイはうじゃうじゃといるようなイメージです。魚が住まないとは、これいかに。「こんなドブに魚なんていないでしょう」と言われるようなクソドブで竿を出すのが快感でもある、ドブ好きのワタクシにとって相手に不足はありません。


朝の泉郷道路を長沼町方面に、北海道らしい雄大な丘の景色などを眺めながら、快適に走るうちに目的のヤリキレナイ川が流れる由仁町に入りました。室蘭本線の由仁駅を中心に広がる由仁の町は、のんびりとした普通の住宅街といった雰囲気で、街中を流れるヤリキレナイ川は橋のたもとにある看板で、すぐに見つけることができました。早速、川を覗いてみると…ありゃりゃ、激浅の三面コンクリート護岸です。両側面のコンクリート護岸はいいとしても、川底までコンクリートで固められてしまった上に水深が10センチほどでは、魚はいないでしょう。どこかによさげなポイントはないものか、川沿いを歩いてみることにします。

「あらやだ〜、魚いるじゃないの〜」

しばらく歩くと底の護岸はなくなり、両岸に背の高い草が生い茂る自然な雰囲気になってきました。決して綺麗な水ではありませんが、薄茶色によどんだボサ際には、いかにも魚が潜んでいそうです。「さすがに何かしらいるべよ…」と、安物の渓流竿に簡単な玉ウキ仕掛けを結び、エサのミミズをハリに付けて、ボサの際へと仕掛けを入れてみます。

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ゆっくりと流れる玉ウキ。と、ほどなくポワンポワンと反応があり「おっ!」と思ううちに、スーッと水中にウキが引き込まれました。反射的に手首を返すと、ブルルッと小気味よい手応えと共に茶色く濁った水中にキラッと光って釣れたのはエゾウグイです。「あらやだ〜、魚いるじゃないの〜♡」釣れたエゾウグイをバケツに入れて、もう一度同じボサ際に仕掛けを投じると、ポワンポワンからのスーッで再びエゾウグイ。魚影はなかなか濃いようです。魚がいることが分かったので、このポイントはこれくらいにして、また少し川沿いを歩いてみることにしましょう。

ヤリキレナイ川に鋭い手応え

よどんだボサ川を歩いていくと、開けた瀬の流れが護岸に当たって少し深くなっている箇所にぶつかりました。変化のない川とはいえ、歩いてみればポイントになり得る箇所があるものです。「ここはいいんじゃないの…」と、玉ウキ仕掛けから、オモリを付けたミャク釣り仕掛けにチェンジ。少し深くなっている護岸際に静かに仕掛けを沈めると、待ってましたとばかりにグリグリッとアタリが出ます。竿を煽るとキュキュンッと鋭い手応えに、「まさかニジマス?」などと無駄に胸が高鳴りましたが、上がってきたのはよく肥えたエゾウグイ。でもいいんです。何の変哲もない街中のドブ川で一瞬でも胸の高鳴りが感じられたのですから、それだけで儲けものです。それにしても、栄養豊富なのか釣れるエゾウグイはよく肥えており、小さいわりに手応えが元気なので楽しめますな。

エゾウグイ (C)週刊実話Web

この後も、この落ち込みで数尾のエゾウグイを釣り、ヤリキレナイ川に魚がいることを確認。とはいえ、北海道の川といえばサクラマスや大きなアメマスが住み、秋になればサケも上ってくる…などと雄大な大自然ですから、エゾウグイくらいでは、「魚がいないに等しい」という評価なのかもしれません。


エゾウグイのフライ (C)週刊実話Web

さて、釣った魚はせっかくなので持ち帰ってビールのツマミにしたいと思います。川の小魚もフライにすればビールのアテにちょうどよい肴になります。冷えたビールに揚げたてのエゾウグイのフライで、ヤリキレナイ川に乾杯。大きめの魚は若干、骨が当たりますが小さな物は食感もよく旨い。あまり水質のよい川ではなかっただけに少し不安もありましたが、ドブ川の魚にありがちな臭いは特に感じられず、ツマミとしてはまずまずです。


住宅街の細流でチョイと竿を出して、手軽に小物と戯れる。ちょっと北海道らしからぬ川の釣りではありましたが、これはこれで楽しい時間をすごすことができました。
三橋雅彦(みつはしまさひこ) 子供のころから釣り好きで〝釣り一筋〟の青春時代を過ごす。当然のごとく魚関係の仕事に就き、海釣り専門誌の常連筆者も務めたほどの釣りisマイライフな人。好色。