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違和感だらけの年齢差別~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web

7月27日、新型コロナウイルスの第7波による感染拡大を受けて、大阪府の吉村洋文知事が高齢者に不要不急の外出自粛を要請した。しかし、私は高齢者だけに限定して行動自粛を打ち出したことに、強い違和感を覚えている。

確かに、高齢者は重症化しやすく死亡のリスクも高いが、爆発的な感染拡大は現役世代、特に若年層が自由に動き回ったことの結果だ。それを止めることなく、高齢者だけに観光や観劇などをしないでほしいというのは、差別だと思う。

ところが、政府は新たに創設した「BA.5対策強化宣言」の中で、吉村知事の対策にお墨付きを与えてしまった。しかも、そのことに対する批判は、メディアからも出てこない。

いまは多様性を尊重すべき時代だといわれる。だから、それに反するような言動をしたら、猛烈な非難を浴びてしまう。先日、私は大手新聞に「女性が働くかどうかは本人や家族が判断すべきことで、税制等の政策で専業主婦を冷遇するようなことは望ましくない」という趣旨の原稿を書いたのだが、掲載を拒否された。男女共同参画社会の実現という時代の流れに反するというのだ。

障碍者に対する差別的な発言をして、メディアから干されたタレントもいた。ところが、高齢者に対する差別だけはやりたい放題だ。

高齢者への差別批判は皆無に等しい

実業家の「ひろゆき」こと西村博之氏は『東洋経済オンライン』の竹中平蔵氏との対談で、新型コロナの重症者治療に関して、「40代〜50代の人は助けて社会を回さなきゃいけないけど、持病のある60歳以上は、申し訳ないけど、もう国としては順番は後にします――僕はそれは正しいと思っちゃうタイプの人間なんです」と述べている。しかし、それに対する世間からの批判は、ほとんどない。

高齢者への差別は経済界も同じだ。アメリカは雇用における年齢差別禁止法で、求人の際の年齢制限を禁じているが、日本では年齢制限をやりたい放題だ。

テレビもスポンサーがつかないという理由で、最近は若年層の視聴率ばかりが重視される。CMを見て商品を買うかどうかを決めるのは、若年層という考え方だが、それは重大な事実誤認だ。昨年の「家計調査」によると、世帯主が60歳以上の世帯の消費支出は、全体の48%を占めている。言うなれば、商品の半分は高齢者が買っているのだ。その事実を企業が認識していないから、結果としてチャラチャラした中身のない番組が増えてしまう。

さらに、近年の政府の政策は、年金カット、消費税増税、医療や介護の自己負担増など、高齢者いじめ政策のオンパレードだ。

なぜ、こんなことが起きているのか。私は、日本の高齢者が、物分かりがよすぎるからだと思う。自分たちの権利を主張するのではなく、常に次世代の未来を優先して考える。だから、「孫子の世代にツケを残してはならない」と政治家に言われると、増税や社会保障給付費のカットに賛成してしまうのだ。

私は、世代間対立は、しないほうがよいと思う。ただ、いまの高齢者差別は限度を超えているから、高齢者は差別にあらがう声を上げる時期に来ている。だから、そろそろ高齢者の利害を代表する政党が現れてもよい頃ではないか。何しろ高齢者は数だけは多いので、政界も財界もその声を無視できなくなるはずだ。

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