『異動辞令は音楽隊!』
原案・脚本・監督/内田英治
出演/阿部寛、清野菜名、磯村勇斗、高杉真宙、板橋駿谷、モトーラ世理奈、見上愛、岡部たかし、渋川清彦、酒向芳、六平直政、光石研、倍賞美津子
配給/ギャガ
星三つをつけた本作。ただし、注釈付きで。
音楽にイージーリスニングというジャンルがありますよね。ポール・モーリアの『恋はみずいろ』とか、レイモン・ルフェーブルとか。肩が凝らずに聴けて、上手だなぁ、心地いいなぁと感じるあの音楽。映画にも、このジャンルがあるとしたら、テレビ局が制作する映画ってのは、総じて「イージーリスニング」じゃないかと。いや、素直に面白いんですよ。特に本作は、その分野の集大成とも言える出来です。そこには、やたらと重い演出はありません。その塩梅を一番心得ているのは、嫌味な上司を演じる六平直政でしょうか。いつもより軽やかで、喉越しのいい演技にチューニングしているようです。
脚本だってベタ中のベタ。三谷幸喜の『オケピ!』や杏主演の『オケ老人!』と、数ある音楽映画と同様、タイトルだけで結末の予想がつきます。阿部寛演じる主人公は、現場一筋30年の鬼刑事。それが、パワハラでコンプライアンスに引っかかり、まさかの警察音楽隊へ異動命令。最初は、ブーブーと文句を言ってばかりで、隊内で不和が生じる。それでも最後は一致団結、演奏会で見事な演奏を披露…ってもう、絶対そうなると読めるわけです。
胸アツ青春映画にいつしか高揚
今回も予想は裏切られることはないのですけれども、警察の音楽隊ということで、ここに刑事ドラマの要素を並行させるところに新味が。音楽隊に異動させられたところで、阿部寛が刑事時代に追っていた「アポ電強盗事件」は終わっていない。この融合がオリジナリティーを感じさせるイージーリスニングであるよなぁと。
俳優は、阿部寛、磯村勇斗、清野菜名、渋川清彦と申し分ない布陣。彼らもイージーリスニングと心得て演じているように見えます。
「でくのぼう」のような不器用な昭和男を演じさせたら、今や右に出るものなしの阿部寛。唯一無二の中年男ポジションを築いた中井貴一とともに、イージーリスニング映画界の両巨頭と言える。そして、主人公の認知症の母を演じる倍賞美津子。振り切った老婆っぷりは、樹木希林亡き後、姉の千恵子とともにこのポジションを独占状態です。
お約束の展開なのに、いつしか高揚している自分に気づくのは、ブラバンの威力もあるかと。大好きなんです、この手の音楽。誰もが胸アツになる青春の輝きがあります。実は私も小学生の頃、鼓笛隊に入っておりました。万が一、刑事になって履歴書に書いていたら、子供時代に和太鼓の心得がある主人公のように、自分も音楽隊に異動させられていたかも。
やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。
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