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『ブラック・ジャック』 手術の扱いが問題に…哀しき“封印漫画”の世界

『ブラック・ジャック』1973-1983 手塚治虫/秋田書店

医療漫画の原点ではあるが、特に初期はホラーテイストが強く、連載初期は掲載誌『週刊少年チャンピオン』が〝恐怖コミックス〟と銘打っていたほど。手塚漫画の中でも傑作に位置づけられてはいるが、いくつか封印されたエピソードが存在する。

手足の指が6本あるという多指症の旧友・間久部緑郎が登場する第28話『指』、脳死と植物人間の描写があいまいで、倫理的に問題がある第41話『植物人間』などが単行本未収録となっている。

また第58話『快楽の座』は、かつて実際に行なわれていた人体実験まがいの非人道的手術・ロボトミーを題材にしたもので、最新鋭の技術によって脳をコントロールする研究者が登場。当時はナーバスだった精神外科手術を取り扱っていたことから市民団体からのクレームがあったとみられる。

当時は問題がなくても後に問題化することも…

手塚氏は『ブラック・ジャック』第18巻のあとがきで次のように書いている。

「あるとき、東大医学部の学生の活動家グループがぼくに、『そんなでたらめをかくのなら、漫画家をやめちまえ。」とどなったことがあります。東大の医学部とかなんとかいったって、まったく幼稚な連中です。でたらめなことがかけない漫画なんて、この世にあるものでしょうか」と。

しかしながら「医療漫画」というジャンルで倫理を問うのなら、手塚氏の言う〝でたらめ〟ばかりで描くというのは都合が良すぎるようにも思える。

医学の進歩に伴って当時の常識が改められるケースもある。当時は問題がなくても、後に問題化することだって考えられるのだ。

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