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『美味しんぼ』 福島原発タブーに切り込んで…哀しき“封印漫画”の世界

『美味しんぼ』1983-休載中 雁屋哲・花咲アキラ/小学館

物語の基本設定だった父子の確執がなくなってからは内容が大きく変わり、食の安全に絡めて密かに取り上げてきた環境問題を露骨に描き始めるようになった。たとえば築地市場移転や長良川河口堰問題、特に危険性を指摘した六ヶ所村の核燃料再処理工場の描写に関しては、日本原燃が「説明される事業内容などについての記載が不十分」としてホームページで補足説明するほどのシビアな主張を繰り広げている。

東日本大震災後に掲載された「福島の真実編」では、事故後の福島第一原発を取材で訪れた主人公たちが、鼻血を出す描写に物議が巻き起こった。このシリーズには福島県古殿町の岡部光徳町長など実在の人物が描かれ、実際に被災地域を訪れて被害を調べるという展開で、その中でおなじみのキャラクターが突然鼻血を出すシーンはかなりショッキングである。このエピソードは掲載直後から大問題となったが、雁屋氏は直接の取材は受けず沈黙を貫いた。

反体制をテーマにしたものが多い雁屋氏の作品

コミックスではセリフはややソフトなものに修正されており、特に鼻血と被曝を関連づけないように配慮されている。しかし、雁屋氏の主張は全く変わっていない。のちに雁屋氏は自著で次のように述べている。

「福島の人たちよ、福島から逃げる勇気を持ってください」(『美味しんぼ「鼻血問題」に答える』/遊幻舎)

雁屋氏の主張したいことは、福島はもはや安全ではない、ということなのだ。

実は原作者の雁屋氏が手掛けた作品には、反体制をテーマにしたものが多い。だが、ここまで露骨なのものは他にない。危機感の表れなのか、反体制主義の暴走なのかは判断が分かれるところだが、雁屋氏は次のシリーズで『美味しんぼ』を終わらせることを明言している。

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