蝶野正洋 (C)週刊実話Web
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蝶野正洋『黒の履歴書』~安倍元首相銃撃事件で学ぶべきこと

安倍晋三元首相の銃撃事件に大きな衝撃を受けている。こんなことが日本で起こってしまうというのが何よりの驚きだけど、それ以上に感じるのが、歴史に残るような大事件なのに世間があまり動揺せず、発生から1週間も経つと報道が少なくなっていること。あの場にいた一般市民はもちろん、誰もが巻き込まれていたかもしれないテロ行為なのに、その警戒や対処法などについては、あまり議論になっていない。


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今回のケースでは、警備体制の不備やSPの不甲斐なさなども指摘されているけど、ほとんどの日本人は銃撃やテロなんて想像もしていないから、瞬時に対応できなかったのは仕方ないと思う部分はある。銃社会で育った外国人は、もっと音や光に敏感なんだよ。


俺は昔、サブゥーという米国デトロイト出身のプロレスラーとタッグを組んでいたことがあって、東京ドームで派手な花火を炸裂させながら入場するということがあった。その演出プランは事前にサブゥーにも説明していたんだけど、いざ本番になって花火がパンパンッと鳴ったら、サブゥーは反射的に身を伏せてしまって、一瞬パニクってしまった。海外では銃撃音が聞こえたら、どのように身を守るのかが刷り込まれているんだなと感じたね。


こうしたことを、日本人も学んでいかなきゃいけない時代になったのかもしれない。


警察は拳銃の密輸に対して厳しく規制しているけど、今回のように自作されたものはそこまで取り締まれていないというのが現状だと思う。銃だけでなく、最近はドローンに爆弾をつけた大規模テロの例もあったりするらしく、そういった武器になりそうな物をもっと厳しく規制したり、屋外イベントなどの警備体制も根本から考え直す必要がある。

煽ったフェイク情報が広まる

今のマスコミ報道を見ると、犯人の動機となったと思われる政治と宗教の問題を取り扱っている。それも追及するべきだけど、今回の事件に限って言えば、動機は「八つ当たり」だよ。

犯人の本来の目的は違っていて、ただ関連のありそうな有名人を、たまたまタイミングが合ったから狙った。だから事前に警戒も出来ないし、防ごうにも防げなかった。解明するべきなのは、なぜ犯人がそういう行動に向かってしまったのかということだよ。


1つは、ネット社会になって、フェイクを含めた偏った情報が広まるようになったというのはあると思う。最近のネットの世界は、あらゆる記事や動画がユーザーの視聴者数を稼ぐことが目的となっていて、見出しやサムネイルでとにかく煽ることが当たり前になっている。俺の動画も一部分が切り取られて、実際に言ってることと真逆の見出しをつけられて、それが拡散していく。俺がどういう意図でその発言をしたのかなんて関係なくて、誰かが煽った部分だけが独り歩きしていってしまう。


そして最大の問題は不景気や新型コロナなどで、社会に不平や不満が溜まっていることだよね。希望が見えずに、ひたすら耐えて生きていくしかないというストレスが、テロや暴漢を生む温床となっている。


このような事件を二度と起こさないためにも、しっかり検証して、どういう社会にしていけばいいのかをじっくり考えていきたいね。
蝶野正洋 1963年シアトル生まれ。1984年に新日本プロレスに入団。トップレスラーとして活躍し、2010年に退団。現在はリング以外にもテレビ、イベントなど、多方面で活躍。『ガキの使い大晦日スペシャル』では欠かせない存在。