自由民主党 (C)週刊実話Web
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宗教問題で「自民党」分裂危機!岸田首相が扱いに困る“菅派”の扱い

安倍晋三元首相の体から生命維持装置が外されたのは、7月8日午後5時ごろ、昭恵夫人が到着して間もなくだった。安倍氏はほぼ即死状態で、消防庁が報道各社に提供した「銃撃事案」第2報には、すでに「心肺停止」と記されていた。


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10日投開票の参院選を控え、応援演説の最終盤に訪れた奈良市・近鉄大和西大寺駅前で凶行は起きた。無職、山上徹也容疑者が、警備の隙を突いて手製の銃を発射。安倍氏の首の右側と心臓を貫いた。


安倍氏は奈良県立医科大学附属病院に運び込まれたが、血圧や脈拍、呼吸などのバイタルサインは一切なく、医学的にはこの時点で「死亡」だった。昭恵夫人が来るまで装置につないで血液循環を確保し、体温を維持することしかできなかった。


翌9日、遺体は東京・富ヶ谷の自宅マンションに運ばれ、簡易祭壇が設けられた奥の部屋に安置された。昭恵夫人と母・洋子さんはリビングのソファですすり泣いた。実弟の岸信夫防衛相や自民党の安倍派幹部らが、訪れる焼香客の対応をした。


増上寺での葬儀では、昭恵夫人が泣きはらした顔で、安倍氏の顔にほおずりをして、参列者の涙を誘った。黒の霊柩車が黒門を出て、自民党本部や首相官邸、国会議事堂を回った。安倍氏は品川の桐ケ谷斎場で荼毘に付された。


この政変とも言える事態に、政権幹部の動きは素早かった。


「安倍氏殺害は民主主義への挑戦」との構図を打ち出し、岸田政権は屈することなく戦い抜くとのメッセージを発信。NHKをはじめ、ほぼすべてのマスコミがその通りに報じた。安倍氏の功績をたたえる報道は続き、自民党は参院選で地滑り的大勝を収めた。


素早い動きは、事件直後の対応だけではない。安倍氏を今秋、国葬にすると決めたのだ。岸田文雄首相が方針を固めたのは、12日夜に麻生太郎自民党副総裁らから電話が掛かってきた後だった。


自民党関係者によると、安倍氏の死去直後、複数の党幹部や党内の保守系議員グループから「国葬にすべきだ」との意見が出された。しかし、首相が逡巡していたことから、麻生氏らが、内閣・自民党合同葬では、これまでの首相経験者と同じになるとして、「国葬しかない」と背中を押したという。

安倍氏の功績は国家公認

決心がついた首相は、直ちに首相秘書官を通じて内閣法制局に検討を指示。法制局は「内閣府が所管する国の儀式として、閣議決定を根拠に開催は可能」との見解を導き出した。

戦後、首相経験者で国葬が執り行われたのは、麻生氏の祖父の吉田茂ただ一人である。1926年に制定された「国葬令」は戦後に廃止されたものの、安倍氏の大叔父である佐藤栄作首相(当時)が強く国葬にこだわり、野党の反対を押し切って実施が決まった。


戦前は初代内閣総理大臣の伊藤博文をはじめ、明治の元勲である山県有朋や大山巌、日露戦争を勝利に導いた東郷平八郎、憲政への貢献が多大だった西園寺公望らが、国葬の栄誉に浴してきた。


安倍氏に対しては、日本最高位の勲章である大勲位菊花章頸飾を授け、従一位に叙することも閣議で決まった。「従一位大勲位」という栄典を授かるのは、戦後の首相経験者では吉田、佐藤、中曽根康弘に続いて4人目だが、佐藤と中曽根は国葬されていない。


日本の近現代史において、安倍氏は建国の偉人らに並ぶ功績があったと国家が公認し、半永久的に顕彰されることになったのだ。


なぜ政権は、異例とも言える国葬にこだわったのか。先の自民党関係者が話す。


「岸田首相は、周囲に『このままでは自民党がガタッとくる』と話していた。つまり、国葬は政権基盤の不安定化を防ぐ狙いがある」


どういうことか。安倍氏は自民党を支える「岩盤保守層」に強い影響力を持っていた。この層は、選挙では「何があっても自民党に投票する」が、安倍氏の死去で不安定化すれば、岸田政権は足元から揺らぐことになる。


首相は自民党の中でもリベラルな宏池会(岸田派)出身で、肌合いは安倍氏と異なる。安倍氏の死去により首相が今後、安倍氏が求めた防衛費増額の重武装路線、中国や韓国に対する強硬路線を見直し、憲法改正にも消極的な姿勢を見せることにもなれば、岩盤保守層が離れていくのは確実だ。


実際、安倍氏に近かった下村博文元文部科学相は、11日のBS日テレの番組で「安倍氏はコアの保守の人たちをつかんだ。岸田政権が人事を含めてないがしろにすれば、党の脆弱性につながる」と脅しとも取れる発言をして、多くのメディアで報道された。


こうした発言や動きが続き、大きなうねりになることを防ぐには、「安倍氏を国家として顕彰し、遺志を継承するしかない」(政府関係者)というわけだ。


国葬には別の狙いもある。メディアや世論の関心は、山上容疑者の犯行動機に移っている。母親が旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)に狂信し巨額の献金をしたために家庭が崩壊したとして、旧統一教会に近い安倍氏を狙ったとされる。

すでに不穏な空気が漂っている…

日本では霊感商法で大きな社会問題を引き起こし、欧米では「カルト宗教」扱いされている旧統一教会と安倍氏、ひいては自民党との関係に焦点が当たる中、岩盤層ではない一般の党支持層に動揺が急速に広がっているという。

「党本部には抗議の電話が相次ぎ、朝日新聞や共同通信などは集中的に取材を始めた。旧民主党支持の新興宗教系組織は、ここぞとばかりに批判を強めている」(前出・自民党関係者)


自民党のベテラン議員が話す。


「国葬には、緩やかな支持層を再度引き付ける狙いもある」


しかし、そのために「3億円」ともいわれる国費が投入されるのだ。政権の命運が懸かった一大イベントは、9月27日に日本武道館で行われることが決まった。ちょうど2カ月後だが、それまでに岸田首相はどうしていくのか。


今後を占う会合が7月13日夜、東京・紀尾井町のホテルニューオータニの日本料理店で開かれた。岸田首相と麻生氏、茂木敏充自民党幹事長、松野博一官房長官の「4人組」が、今後の政権運営について話し合ったのだ。


岸田派関係者によると、首相はこの4人を中心に政権の骨格を維持した上で、「難局を乗り越えたい」と要請。岸田、麻生、茂木の3派と、安倍派のうち福田康夫元首相に近い「福田系」による「3.5派体制」の維持を確認した。


その上で、安倍派のうち「安倍系」をどうするのかが話題になった。安倍系とは、安倍氏の側近だった萩生田光一経済産業相や、資金力のある西村康稔元経済財政担当相らを指す。福田氏の長男で党総務会長の達夫氏や松野氏は、福田系の主要メンバーだ。


結局は「安倍系も主流派にしないと派が割れ、政権運営にも影響が出る」との懸念から、安倍派全体を主流派に含めることで調整を進める方向になったという。


安倍派も領袖の死去を受け、21日の定例総会で、当面は会長代理で年齢の高い塩谷立元文科相が窓口役となって、事実上の集団指導体制で派を運営する方針を確認した。もう一人の会長代理である下村氏、松野氏や萩生田氏、西村氏といった面々だ。


だが、安倍氏宅での弔問客への対応や、増上寺での葬儀の仕切りなど、早くも跡目争いに絡もうとする西村氏や下村氏に、他の幹部が反発。すでに不穏な空気が漂っているという。


「西村氏は、幹部の多くが参院選最終日で不在だったこともあり、安倍氏の自宅を真っ先に訪れ、ご遺族と共に弔問客への対応を続けた。塩谷氏が到着しても態度が変わらなかったため、何様のつもりなのかと、多くの人が感じたようだ」(安倍派関係者)


増上寺では「ご遺族に迷惑が掛かる」として、遺族以外で安倍氏の柩に最後の献花をするのは、政界関係者では、安倍派最高顧問の衛藤征士郎元衆院副議長と、下村、塩谷両氏の3人だけに制限された。


下村氏による西村氏への「意趣返し」と受け止められたが、安倍氏の盟友だった麻生氏や、安倍派に影響力を持つ森喜朗元首相だけでなく、岸田首相も献花しなかった。派内では、これにも「おかしい」という声が上がったという。

“菅派”結成は見送り

先の岸田派関係者は、安倍派の現状を踏まえ、人事について「福田系は松野氏が官房長官続投のようなので、達夫氏が退き、代わりに萩生田氏か西村氏のどちらかが党四役入りするのではないか」と予想した。

残る問題は、菅義偉前首相や二階俊博自民党元幹事長、森山裕前国対委員長ら、党内の非主流派をどう処遇するのかだ。


安倍氏の突然の死去により、政界の最高実力者の一人にのし上がったと言っていい菅氏は、安倍氏に勧められていた「菅派」結成について、「時機ではない」として見送っている。


だが、いざ立ち上げとなれば、菅氏に近い党内の無派閥議員や、二階、森山両派の議員を含めて「70人規模」になるといわれている。


菅陣営には、二階、森山両氏という実力者に加え、石破茂元幹事長や小泉進次郎前環境相、麻生派所属ではあるが菅氏に近い河野太郎党広報本部長もおり、発信力も抜群だ。


「菅系を野に放つとやっかいになる」(岸田派幹部)というのが、自民党主流派の認識なのだ。


しかも、菅氏は安倍政権を官房長官として支え、菅政権では安倍氏の保守路線やアベノミクスをはじめとする改革路線を継承した。2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロとする目標を「国際公約」として打ち出すなど、柱となる独自政策もある。


首相は14日夜、岸田派幹部の小野寺五典元防衛相、側近の木原誠二官房副長官の2人を公邸に呼んだ。


岸田派関係者によると、この中で首相は、菅系の処遇について「どうしたらいいか」と意見を求めた。菅氏を取り込み、挙党態勢でいくかどうかだが、首相は「挙党態勢に傾いているようだった」という。


この場合、菅氏を「副総理」で招く構想があり、伝え聞いた菅氏は「いまは政局にする時機ではない」として、要請があれば検討する構えを見せているという。


だが、菅系には主戦論も存在する。2年後の党総裁選をにらみ、総主流派体制では岸田首相続投が濃厚になるとして、あえて非主流派にとどまるべきだという考えだ。


実はここに日本維新の会の姿がある。維新の松井一郎代表と菅氏は近い。維新側は菅氏側に「いざとなったら自民党を割り、『改革推進』を旗印に政界再編をしようと水を向けている」(維新関係者)という。


菅氏はどうするのか。岸田政権を支えるのか、次の機会に備えるのか。岸田首相も、菅氏がこうした思惑を秘めていることは百も承知だろう。


挙党態勢を組むのなら、近く首相と菅氏との会談が行われるとみていい。そこが首相にとっての正念場となる。