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日本で“太陽光発電”が普及しない本当の理由~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web

岸田文雄総理は7月14日の会見で、今冬の電力不足に備えるため、最大9基の原子力発電所を稼働させると表明した。私は一瞬、参院選が終わった途端に、原発の全面再開に踏み切るのだと受け取った。しかし、それは早とちりだった。

政府関係者によると、稼働対象の9基は、美浜原発3号機、大飯原発3、4号機、高浜原発3、4号機、伊方原発3号機、玄海原発3号機、川内原発1、2号機で、いずれも原子力規制委員会の審査に合格し、地元の同意を得て、すでに再稼働を果たした原発だ。

つまり、総理は単に定期点検で止まっている原発を動かすと言ったにすぎず、これで冬場の電力不足が解消されることにはならない。実際、電気事業連合会の池辺和弘会長は、最大9基による原発稼働はこの冬の予備率の見通しにすでに織り込んでいるとして、「電力需給は依然厳しい状況」との考えを示している。

岸田政権のもう1つの対策は、節電ポイントだ。電力会社の節電プログラムに参加した家庭に、8月から一律2000円相当のポイントを付与する。ただ、この程度のポイントで大きな節電効果が得られるとは、到底考えられない。私は電力供給を電力会社に任せるのではなく、太陽光発電によって、家庭や企業が電力を自給自足する形に抜本転換すべきだと思う。電力会社は電力が不足したときの補完に徹するのが、一番よいのではないか。

メリット多数でもできないワケ

メリットはたくさんある。第1は、コストが下がることだ。電力会社から買うより、自分で発電して自家消費すれば、電気代のコストはほぼ半分になる。第2は、太陽光発電は温室効果ガスを排出しないので、地球環境対策になる。第3は、原油や天然ガスの価格高騰に振り回されることがなくなる。そして第4は、地震や台風といった災害の際にも電力が確保できる。つまり、電力自給はよいことだらけなのだ。

電力自給に必要な4キロワットの太陽光パネルの面積は20畳ほどだから、普通の戸建て住宅なら十分設置が可能だ。日本の住宅の6割は持ち家で、そのうち戸建てが2701万戸、マンションが571万戸だから、持ち家の中で戸建ては83%を占める。住宅ストック全体から見ても50%が持ち家の戸建てだから、まずそこから始めればよい。

4キロワットの太陽光発電システムの価格は、100万円を切っているから、例えば半額を政府が補助したとしても予算総額は13兆5,000億円だ。しかも、5年計画で進めれば、1年当たりたった2兆7, 

000億円で電力供給の抜本改革が実現する。

それではどうして、こうした政策が採られないのか。もし、改革を進めると、電力会社が供給する電力は、夜間や冬期に集中することになる。だから、稼働率が下がって、電力会社が供給する電気の料金は大きく値上がりすることになる。それは太陽光発電で十分な電力を得られない、例えば高層マンションに住む人などの負担を大きくする。

もう1つは、電力会社が頻繁に発電量を調整しなければならないので、安定電源である原子力発電の必要性がなくなってしまう。

つまり、日本に最も適した発電方法である太陽光発電に政府が冷淡なのは、大手電力会社や〝原発ムラ〟の住人たちの利権を守るためである可能性が高いのだ。

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