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ガソリン車の禁止は正しいか~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎(C)週刊実話Web

東京都の小池百合子知事が12月8日の会見で、都内で販売される乗用車について、2030年までにガソリン車をゼロにする目標を表明した。2030年代半ばと報じられた国の目標を大幅に前倒しした格好だ。

最初に断っておくが、私は、省エネを強力に推し進める必要があると考えている。国連環境計画によると2019年の世界の温室効果ガス排出量は591億トンと、前年比2.6%増えて過去最大となった。世界の平均気温を産業革命前と比べて1.5度以下の上昇にとどめるというパリ協定の目標を達成するためには、毎年7.6%ずつ削減する必要があるのに、逆に増やし続けているのだから、このまま進めば地球が壊れてしまうのは確実なのだ。

だから、自動車の省エネはとても重要なのだが、対策のやり方が問題になってくる。ガソリン車禁止というのは分かりやすいが、それの効果をきちんと考えないといけないのだ。

もしガソリン車を禁止したら、東京都から軽自動車が消えてしまう。スズキが「マイルドハイブリッド車」を発売しているものの、電気でも走行できるという意味での本当のハイブリッド車は、軽自動車には存在しないからだ。

しかし、軽自動車は環境によくないのだろうか。例えば、軽自動で最も燃費のよいスズキ・アルトのJC08モードの燃費は、1リットルあたり37キロだ。一方、ハイブリッド車で最も燃費のよいトヨタ・プリウスは同41キロと、実は大差がない。同じハイブリッド車のトヨタ・ヴェルファイアは、同19キロで軽自動車より燃費が劣っている。車体重量が増えれば、燃費が悪くなるのは当然なのだ。

車をつくるために必要なエネルギーも考えるべき

つまり、ガソリン車を禁止することで、燃費のよい車にシフトさせるという効果が、確実にあるとは言えないのだ。私は単純に「一定の基準を満たしていない燃費の悪い車の販売を禁止する」という規制をすればよいと思う。そのほうが科学的だし、有効性も高い。

また、念頭に置かなければならないのは、車をつくるために必要なエネルギーだ。車の素材である鉄やプラスチックやガラスをつくるには、エネルギーが必要で、車を溶接するのにもエネルギーが必要になる。

さらに、廃車になってリサイクルする際に必要となるエネルギーもカウントしなければならない。そうした点まで含めると、よほど長距離を乗るのでなければ、電気自動車やハイブリッド車より、軽自動車のほうが地球環境に優しい可能性が極めて高い。

本来なら地球環境のために、みんなで軽自動車に乗りましょうというのが、正しいキャンペーンではないか。なぜ東京都だけでなく、日本政府や世界の主要国は、「ガソリン車禁止」ばかりを主張するのだろうか。

一つの理由は、政治的な問題だ。例えば、「JC08モードで燃費30キロ未満の車の販売を禁止する」と言っても、普通の人にはなかなか伝わらないだろう。それよりも「ガソリン車を禁止します」と言ったほうが、分かりやすいし、環境対策に熱心に取り組んでいるように見えるのだ。

もう一つの理由は、大型の乗用車に乗りたい人が、やはりたくさんいるということだ。「自分は電気自動車に乗っています」というのを免罪符にして、大手を振って燃費の悪い大型車に乗り続けている。果たして、それでよいのだろうか。

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