北朝鮮突然の“人権国家アピール”の背景…実情は「コネとカネ」横行する身分制度社会
国連人権理事会は4月1日、スイスのジュネーブで開かれた第49回会議で、北朝鮮の人権侵害を非難し、改善を求める決議を採択した。同様の決議は、2003年に人権理事会の前身である人権委員会で初めて採択されてから、今年で20年連続となる。
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北朝鮮は、自由度指数や民主主義指数、経済自由度指数など、世界各国を対象にした自由と人権に関する指数で、いずれも最低ランクに位置付けられており、北朝鮮が最悪の人権侵害国家であることは、かねてより世界共通の認識であった。
しかし、北朝鮮の外務省は、各国から非難の声が上がるたびに「重大な主権侵害行為、政治的挑発」だと強く反発。「米国とその追随勢力の敵対行為をいささかも許さず、わが人民が生命のように大事にするわれわれの社会主義制度と真の人民の権利を守る」などと強弁している。
北朝鮮にも「社会主義憲法」というものがあり、その第1章第8条では、人権について次のように言及している。
〈朝鮮民主主義人民共和国の社会制度は、勤労人民大衆がすべての主人となり、社会のすべてが勤労人民大衆のために服務する人間中心の社会制度である。国家と社会の主人となった労働者、農民、軍人、勤労インテリをはじめとする勤労人民と、その利益を擁護し、人権を尊重し、保護する〉
“有銭無罪 無銭有罪”の社会構造
一応は高尚な文言が並んでいるが、北朝鮮の現実とかけ離れていることは言うまでもない。同国では法律よりも、最高尊厳たる金正恩総書記の〝鶴の一声〟のほうが優先される。一般社会で罪を犯した場合でも、コネとカネ次第でどのようにでもなる。いわゆる「有銭無罪 無銭有罪」の社会構造だ。
「2020年12月の最高人民会議常任委員会で『反動的思想・文化排撃法』が採択され、地元のしがらみのない中央の要員が各地に派遣されました。それからは中高生が韓流ドラマを視聴しただけで逮捕され、教化所(刑務所)や管理所(政治犯収容所)送りにされる事例が続出しています」(国際ジャーナリスト)
米国に拠点を置く国際的な人権団体『ヒューマン・ライツ・ウォッチ』は、かつて北朝鮮の収容施設にいた人々や元政府関係者に調査を実施した。その結果、司法制度が不透明な北朝鮮では、勾留中の拷問や屈辱的扱い、自白の強要が常態化しており、人々は〝動物以下〟に扱われていることが明らかになった。
また、調査に応じた複数の女性は、施設内で性的暴行がまん延していたと証言している。
ところが、最近になって突然、朝鮮労働党宣伝扇動部が思想教育に関する資料を配布した。資料では冒頭、次のように言及されている。
〈人権は政治、経済、文化をはじめとした社会生活のすべての分野において、人民が行使すべき自主的権利である〉〈人権は、人間の自主的権利で、いかなる場合にも侵害されず、それを保障するのは、世界のすべての国と民族の当然の義務である〉
無償は崩壊…ワイロが必須
これは『世界人権宣言』の第2条を北朝鮮式になぞったものだが、人権侵害の頂点に立つ朝鮮労働党が、なぜ人権について語り始めたのか。「国際社会からの人権侵害についての指摘に対して、北朝鮮は強く反発しているものの、内心では気にしています。今回、人権に言及した最大の目的は正恩体制の礼賛で、人徳の高い最高指導者を戴き、無償の医療、教育が保証されている北朝鮮こそが、真の人権が守られている国だと主張しているのです」(同)
しかしながら、これは真っ赤な嘘。すべての国民は「出身成分」という五つの階層に分類され、優遇または差別するという事実上の身分制度が存在している。例えば、最下層の日本からの〝帰国者〟は、条件の良い職場への配属や党における幹部への登用などの道がほとんど閉ざされ、独身者の場合は結婚する上での差別もあった。
「当局は成分の存在を否定していますが、明らかに世界人権宣言に反する制度です。また、無償の医療、教育制度はとうの昔に崩壊しており、薬は市場で買うのが当たり前、医者にもワイロを渡さないと診察してもらえません。学校でもさまざまな費用が徴収され、大学に行くにも多額のワイロが必要。弁護士もいるにはいるが、党に支配されています」(外交関係者)
人権アピールのもう1つの理由は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、医薬品の支援や食糧援助を得るためだ。北朝鮮は長らく「感染者ゼロ」と豪語していたが、5月12日に一転して感染を認めた。
「人権を強調すれば、国際社会による人道的支援が動き出すかもしれず、そうすれば対話を始めるきっかけになり得ますからね。結局、その対話から援助を引き出すのが狙いです」(前出・国際ジャーナリスト)
これまで北朝鮮は、国難に直面すると必ず表面だけ態度を改め、国際社会に支援を求めてきた。立派なミサイルを誇示して他国を威嚇したかと思えば、急に尻尾を振ってくる。本当に調子のいい国家である。
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