芸能

天然で物欲ゼロなウチの嫁さん~島田洋七『お笑い“がばい”交遊録』

まだ漫才師になる前、家出同然で俺と佐賀を飛び出したのがウチの嫁さんです。嫁さんは真面目なんですけど、天然なところがあるんですよ。佐賀の自宅はすべて木造建て、釘を1本も使っていないんです。だから、どうしても窓枠やドアなどに隙間ができてしまう。

つい先日も、2階にいると「ちょっとオトン下りて来て」と嫁さんの声がした。キッチンへ行くと、隙間から入ってくる小バエ用の虫取り紙が嫁さんの背中にベタッと貼り付いていた。「ちょっと外して」と言うから「お前はハエか」とツッコんだんです。すると嫁さんは「ブーン、ブーン、ブーン」だって。さすが芸人の嫁だなと爆笑しましたよ。

大阪で売れない頃、嫁さんは経理の仕事をしていました。だから事務処理はきちっとしている。でも、俺が漫才ブームで売れてからは働きに出たことがないから、世間というものが分かっていないところがあるんです。会社勤めなら、上司や取引先に忖度しなければいけない場面もあるでしょ。

以前、姪っ子が家に遊びに来た時、2万円もするワンピースを着てきた。「おばちゃんこれキレイでしょ?」。「普通やん」。物凄く気に入って高いお金を出して買った服なんだから、褒めてあげれば良いのにね。真面目やけど物言いはストレートなんですよ。

ジャージにワッペン6000円分!?

他にも、5000円札を1000円札5枚に替えてもらおうと、「5000円を1000円札に替えて」と頼むと、1000円札を1枚しか渡さない。「1000円札を5枚渡すやろ、普通」と文句を言うと「それなら両替してって言うて」と反論するんですよ。

俺はクレジットカードを持ち始めたのが5〜6年前からなんです。芸人はやっぱり現金で払うことが多いんです。東京へ行く時には、9万円を1万円札で包んで10万円の束を作り、財布に入れておく。30万円をそうして欲しいと嫁さんに頼み、飛行機で財布を開けると10万円を1万円で包んでいたんですよ。一束が11万円になっていた。帰宅して注意すると「そんなことしたことないから分からん」でしたね。

物欲もゼロに等しいんです。本当に物を買わない。庭の草むしりをする際に着ているジャージが破れるたび、ワッペンを自分で縫い付けていた。気がつくと、股にも背中にもワッペンを縫い付けている。計14カ所。ワッペン1個が400円以上するから6000円くらいになる。「新しいジャージを買ったほうが安いで」と振ると、「言われるまで気が付かなかった」だって。

また、草むしりや犬の散歩にいく時に履いているスニーカーを見ると、破れた小指の部分をガムテープで覆っている。「俺は芸人やで。恥ずかしいから新しいスニーカーを買うてこい」と伝えると、2〜3日後買ってきたんです。「2割引きだったから同じスニーカーを5足買ってきた」と得意げに話すじゃないですか。5足履きつぶすのに何年掛かるんでしょうね。

俺が嘘ついてもバレないし、どこかへ出掛けても「どこ行くの?」「何時に戻ってくる?」なんて一切聞かれません。帰ると大抵、寝ています。頭の良い嫁さんだったらケンカが絶えなかったと思うと、俺には一番合っているかもね。

島田洋七
1950年広島県生まれ。漫才コンビ『B&B』として80年代の漫才ブームの先駆者となる。著書『佐賀のがばいばあちゃん』は国内販売でシリーズ1000万部超。現在はタレントとしての活動の傍ら、講演・執筆活動にも精力的に取り組んでいる。

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