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蝶野正洋『黒の履歴書』~日本にまだ残る古いコーチング

蝶野正洋
蝶野正洋 (C)週刊実話Web

千葉県立高校の女子バレーボール部の顧問が、女子部員に対して至近距離からボールを顔面に投げつけてケガをさせ、傷害の疑いで逮捕された。

部活における行きすぎた指導というよりも、これはもう体罰。いまだにこんなことをしているんだと非難する声も大きくなっている。

体罰が当たり前だったのは、俺の先輩くらいの世代が学生のころじゃないかな。ゲンコツ喰らってムカついても、その場で反抗すると退学になるから、そこは飲み込んで、最後に卒業するときにその先生を呼び出して「お礼参り」をするとかね。当時は先生側も、お礼参りを覚悟するくらいの信念でやっていたのかもしれないけど。

そもそもスポーツは「特訓」と「体罰」が紙一重。100本ノックとか、今なら体罰になってしまうかもしれないよね。特訓は体力と精神力の両面を鍛えるのが目的なので、という部分は確かにある。でもそこで軍隊式でビシビシやるのは、もうダメということだよね。今や、その軍隊ですら暴力を振るわないで精神を鍛錬し、規律を正していくという方法を取っている。だから、スポーツ指導者たちも、指導方法の見直しを徹底したほうがいいと思う。

カラダの作り方とか、記録を伸ばすためのテクニックみたいな部分ではスポーツ科学はすごく進んできている。だけど、基本的なコーチングという部分では遅れていて、プロはまだしも、アマチュアや部活レベルだと、理論ではなくて根性論がまだまだのさばっている。顧問やコーチの中には、自分たちが受けてきた非効率で非科学的なトレーニングしか知らなくて、それをそのまま今の子どもたちにやってしまう場合もある。特に格闘技や武道の世界だと、もっと閉鎖的かもしれない。

ぜひ取り入れたい“マイスター制度”

京都の舞妓さんが、未成年で酒を飲まされたり、セクハラされたりと、伝統という名のもとに大変な目に遭っているということを告発した。これも本質的には同じ構図で、その世界で当たり前のようにやってきたことと、今の若い世代の考え方がズレているんだよ。相撲の「かわいがり」とかも、それがあると思って入ってくるのと、知らなくてやられるのとでは、ショックが違ってくるだろうから。

だから伝統的なものとして保護するなら、別のルールを作ったほうがいい。今の常識に合わせようとしたら、崩れてしまうものもあるからね。

先生と生徒、師匠と弟子という関係性は、本質的にパワハラを孕みやすい。そこに閉鎖的な体質が加わると、より世間の常識からズレていってしまう。

ドイツには「マイスター制度」というものがあって、技術や指導力に優れた職人に対して手当や優遇措置をしている。日本でも同様の取り組みは広がっているんだけど、これをスポーツや伝統芸能にも取り入れてみてもいいかもしれないね。それを運転免許みたいに5年に1回更新するようにして、そのときに「もう、この教え方はダメになりましたよ」と、指導法もアップデートしていけばいい。

『週刊実話』の編集部も早くマイスター制度を取り入れたほうがいい。こんな雑誌作れる人間なんて消えていく一方だから、伝統的な技術として保護しておかないと、跡形もなくなってしまうだろうからね(笑)。

蝶野正洋
1963年シアトル生まれ。1984年に新日本プロレスに入団。トップレスラーとして活躍し、2010年に退団。現在はリング以外にもテレビ、イベントなど、多方面で活躍。『ガキの使い大晦日スペシャル』では欠かせない存在。

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