『キャメラを止めるな!』
監督・脚本/ミシェル・アザナヴィシウス
出演/ロマン・デュリス、ベレニス・ベジョ、グレゴリー・ガドゥボワ、フィネガン・オールドフィールド、マチルダ・ルッツ、竹原芳子
配給/ギャガ
約3年前、予算300万円、当時は無名の上田慎一郎監督と俳優たちが作り、わずか2館の劇場公開から口コミで大ブレークした『カメラを止めるな!』。ご覧になった方も多いのでは。
このリメークをフランス映画が、しかもアカデミー賞5冠に輝いた監督が撮ると聞いて楽しみにしておりました。
つまらないはずがないこの新作。スタートして数分で「名匠が、よくここまで完コピしたな」と驚きました。
同じ題材でも違ったテイストになるんだろうと想像していたら、主人公の女の子がゾンビに追い詰められていくところから、服装といい、叫び方といい、劇中劇の部分は意外なほど原作に忠実です。しかも登場人物名まで日本語。舞台となる山奥の廃墟まで、どうやって探してきたのかと思うほどフランスっぽくない。これほど本気でコピーしているなら、どれだけ共通点があるのか、細かいところまで見てやろうという気持ちにスイッチが入ります。
自分の場合は、帰宅後にノーカットでTV放映された日本版の録画を見直して確認したほど。皆さまも事前に今一度本家の作品を見ておくと、さらに楽しめると思います。
とはいえ、劇中劇以外の部分は、新たな登場人物、新たなトラブル、新たな構造と、「そうきたか!」というヒネリを加えています。その構成の塩梅も上手い。
“どんぐり”も世界デビュー!?
ここまで原作を尊重しているなら、なおさら現場を混乱に陥れる無茶ぶりプロデューサー「どんぐり」が扮した役はどうするんだ、フランス人にはいないだろうに、と思っていたら何のことはない、竹原芳子本人が登場。まさかの世界デビューです。日本国内でも珍しい「不思議な生き物」を、かの地の人はどのような衝撃を持って受け止めたのでしょう。本作は今年のカンヌ映画祭でオープニング作品としてプレミア上映され、長いスタンディングオベーションに包まれたそうです。フランスの一部では日本への好感度は高いとも聞きますが、実際は黒人に対してよりも差別意識はキツい。そういう偏見もニオわせているあたり、正直だと思いました。
1つだけ心配になったのが、劇中劇のゾンビ映画のタイトルが〝Z〟だったこと。今やロシア軍のウクライナ侵攻のシンボルとして、軍用車両に描きなぐられている映像をよく見ます。まるでナチスドイツの〝鉤十字〟のように、ファシズムの象徴に見える〝Z〟が、堂々と出てきたので、正直ギョッとしました。
もちろん、本作の製作の方が先なので、時代の奇妙な符号と言うべきなのでしょうね。
やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。
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