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安田大サーカス・クロちゃんインタビュー〜「僕はクズでもヒールでもない、ただ素直なだけなんです!」

『安田大サーカス』クロちゃん
『安田大サーカス』クロちゃん(C)週刊実話Web

数時間後にはウェブ番組『アイドルのいろは』の生配信が行われるという東京・渋谷のライブハウスの楽屋扉を開くと、テレビで見たままの、特異なオーラを放つ男性が座っていた。

がっちり二の腕が強調されたタンクトップ姿にスキンヘッドにヒゲ面で、「今日はよろしくお願いします」と容姿に不釣り合いな丁寧で愛らしい声を出す。

唯一無二すぎる存在感を示すのは、お笑いトリオ『安田大サーカス』のクロちゃんだ。

ここ数年は『水曜日のダウンタウン』(TBS系)をはじめとするドッキリ企画でブレークし、視聴者の笑顔と阿鼻叫喚をほしいままにしているが、そもそも芸人志望ではなかった。クロちゃんは、アイドルになりたかったのだ。

クロちゃん(以下、クロ)「もともと、松田聖子さんや小泉今日子さんなどの女性アイドルに憧れていました。大学生のとき、社会福祉を学ぶ過程で子どもがいる施設に実習に行ったんです。子どもたちから『歌って!』と言われて女性アイドルの歌を披露するととても喜んでくれて、『アイドル歌手になりたいな』と思い始めました。僕は声の高さが異常だし、自分だけにしかなれないアイドルがあるのでは、と思ったんです」

その矢先、友人から「松竹芸能がアイドル部門を設立した」という情報をキャッチ。オーディションに現在同様のスキンヘッドで現れ、松田聖子の『渚のバルコニー』を歌い、少林寺拳法を披露した。既存のアイドル像を覆すオーディション風景を浮かべ、思わず「審査員の方も、お笑い志望の人が間違えて来たと思ってしまうのでは」と問うと、クロちゃんのマネジャーが「ははは」と笑う。

クロ「いや、『ははは』じゃないから! スキンヘッドだけどカツラをかぶればどうとでもなると思ったし、『受かったから事務所に来て』と言われてボイトレとかできるのかなと思っていたら、まさかお笑い部門のほうに受かっていて、『なんでネタ持ってこないんだ?』と怒られるなんて、微塵も思わなかったですよ!」

審査員特別賞を受賞

騙された――。愕然としたクロちゃんは、すぐに辞退を申し出た。

クロ「そしたら、『アイドルユニットを組ませてあげるから待って』と言われて。プッチモニみたいな感じかなと思い顔合わせに行くと、団長とHIROくんがいました」

また、騙された――。クロちゃんは憤ったが、事務所は「せっかく集まったのだから1回くらいやってみて。売れたら好きなことができるから」と推し進め、2001年に安田大サーカスが誕生した。

クロ「すぐに仕事が決まって、『逃げられなくなった』と。でも団長が『ネタは考えなくていい。仲良くなる努力だけはしよう』と言うので、『仲良しのふりをすればネタを作らなくていいんだ! ラッキー!』と。徐々に『ネタ書いてこい』と言うようになったから、約束が違うと思いましたが」

順調な滑り出しから一転し、次第に仕事は激減。ところが、クロちゃんは「チャンス」と目を輝かせた。

クロ「HIROくんが親から『このままメシを食えなくなったら芸人を辞めろ』と言われたんです。でも団長がHIROくんの親を説得しちゃって。お笑いの賞を取るから待ってくれと…」

有言実行、2004年、安田大サーカスは『ABCお笑い新人グランプリ』の審査員特別賞を受賞する。クロちゃんは複雑な想いを抱えた。

クロ「芸人を辞められなくなってしまったけど、そのときは確かに頑張ったんです。だから一応は嬉しかった気がしますね。何を頑張ったかって? 団長が納得するまでやらされたことを、ちゃんとやり遂げたんです」

当時、世間は『エンタの神様』(日本テレビ系)が最盛期を迎えるなどお笑い芸人大モテ時代。ご多分に漏れずクロちゃんもマスコミに狙われ、05年9月、〈クロちゃん ヌードルを「お持ち帰り失敗」トホホデートの夜〉とのタイトルが『フライデー』に踊った。

クロ「相手は僕らのDVDで共演した子。同郷ということもあり、社交辞令で連絡先を交換して。半年後に『まだご飯に行かないんですか?』と連絡がありました」

またまたまた騙された…

居酒屋の個室と、夜の街を歩くツーショットが掲載された。発売日、真っ先に浮かんだのは大阪在住の恋人の顔だった。

クロ「やましいことは一切ないけど、朝イチで新幹線に乗って大阪に行き、彼女の自宅付近のすべてのコンビニでフライデーを買い占めてトンボ返りしました。その日の夜、『通勤電車の中で、フライデーの中吊りを見た』と彼女から電話があったんですけどね。でも相手の子、なんか違和感があったんです。当日までに店を変えたり、個室のドアを開けたままにしたり。それから数年後、記者さんから『あのときはすみません。僕が女の子と組んだんです』と白状されて、合点がいきました」

またまた、騙された――。クロちゃんは芸能活動を始める前も、たびたびこうした目に遭ってきたという。

クロ「こういう声だし、マイノリティーだからか、騙されてショックを受けることが多かった。でも、自分のしたいことを妥協なくやりたい人間でもあるんです。死ぬときに後悔したくないから」

こういった経験が重なったことで、クロちゃんがたどり着いた信念は、「損をせずに生きる」。

クロ「ストレスを溜めて自分のしたいことができなくなる…、つまり〝損〟をするのが一番イヤだから。ダメージを100%受けない生き方が身につきました。僕はハートが強いわけではなくて、ただ損をしたくない、楽しく生きたいだけなんです」

その最たるものが、17年5月放送『水曜日―――』で確立された「クズキャラ」への対応だろう。自身のツイートと、隠しカメラが追っていた現実での行動にたびたび嘘が発覚、ツイッターに批判コメントが相次いだのだ。

クロ「罵詈雑言ですよ。でも『死ねって書いてるけど、語彙力ないですね』とか思うと打撃は受けません。中には『確かにそうかも』と思う的を射た声もあり、それは取り入れようと思ったり。こういう世間の声について、『どうやったらこれがプラスにひっくり返るだろう』と考えるようになりましたね」

プライベートはないと言っていい

以降、『水曜日〜』のドッキリ企画で〝クズ言動〟がフィーチャーされ、番組に欠かせない存在となった。路上で突然身柄を押さえられる、始まり終わりも分からぬ撮影や、本気で恋をした末に落とし穴に落とされたり、自宅に知らぬうちに侵入されたり隠しカメラを仕掛けられることは日常茶飯事だ。プライベートはないといっても過言ではなく、そのたびにカメラの前で感情をむき出しにした。

クロ「よく芸人は『スイッチを入れる』と言いますが、僕はそんなに器用なタイプではないし、そもそも隠し撮りされているからスイッチの入れようがないんです。だからこそ、社会のルールはきちんと守るようになりました。たとえば車の後部座席でシートベルトをするとか。僕がルールを守らなかったせいでVTRが使えなくなったり、それでもっと過酷なロケをさせられたらイヤですから。それに僕はクズでもヒールでもなく、素直なだけなんです!」

女性と酒を飲んだ際、彼女が離席するとそのコップを舐め回す姿も隠し撮られたが、「付き合う予定だったし、グラスくらい舐めてもいいだろう」と、どこまでも素直な感情に忠実だ。

クロ「自宅での自慰行為も撮られていると思うんです。でも、それを放送するわけないじゃないですか。隠しカメラにおびえて生活が制限されるのは損ですから。新居にも24時間監視カメラがついていますが、一人暮らしだし、倒れたときにすぐに発見してくれると思うとラッキーです。最近ではタイプのギャルに『本当にカメラがついているんだよ、見に来る?』とナンパする口実に使っています」

目下の目標は、「抱かれたくない男ナンバー1」に君臨した過去を持ちながら、その人柄の良さが世間に浸透し好感度タレントとして活躍する出川哲朗だ。

クロ「出川さんから『昔の俺を見ているようだ。クロちゃんも、あともう少しでひっくり返るかもしれないね』と言われたことがあるんです。いいことばかり言われるほうがラクですが、そればかりでは絶対失敗する。文句や批判について『どうしたらプラスになるのか』を考えて生きたほうが、変な選択肢を選ばずに済むんです」

たとえ騙されても、過酷な状況に陥っても――。クロちゃんは、人生を楽しみながらサバイブする術を知っている。

(文/有山千春 企画・撮影/丸山剛史)

クロちゃん
1976年、広島県出身。2001年より安田大サーカスの一員として活動中で、スキンヘッドの強面とはギャップのあるソプラノボイスが特徴で、近年は『水曜日のダウンタウン』(TBS系)で「クズ芸人」ぶりを披露し人気に。バラエティー番組のほか、アイドルのプロデュースなどでマルチな才能を発揮している。

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