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北朝鮮・2人の“猛女”が核戦闘武力遂行!? 日米韓に新たな脅威

(画像)Goga Shutter / Shutterstock.com

いまだ男尊女卑の風潮が色濃く残る北朝鮮で、驚くべき刷新人事が断行された。

6月8〜10日に開催された朝鮮労働党の中央委員会総会で、崔善姫・第一外務次官が女性として史上初の外相に任命されたのである。

崔氏は2018年と19年の米朝首脳会談で、実務の中心を担った米国通として知られる。金正恩総書記が彼女を登用した狙いはどこにあるのか。

「7度目の核実験を控えている正恩氏は、緊張が高まる北朝鮮外交に必要な人材として、崔氏の実力に期待しています」(外交関係者)

現在、北朝鮮には新型コロナや急性腸内性感染症がまん延し、大干ばつによる飢饉も重なって国民はどん底にあえいでいる。この状況を打開するには、国際社会からの経済制裁を解かなければならない。

「そこで崔氏の出番です。外交能力の高い彼女を使って、ウクライナ問題や記録的なインフレなど多方面に難問を抱える米国を〝核カード〟で揺さぶり、制裁を解除してもらおうという魂胆でしょう」(同)

新外相に就任した崔氏は、果たしてどんな人物なのか。彼女は03年の核開発問題をめぐる6カ国協議の頃に、通訳として本格的に外交デビューしたとみられる。

「正恩氏が公式の場に現れた直後の10年10月、崔氏は外務省副局長に抜擢され、その後も局長、外務次官、第一外務次官と、異例のスピードで出世の階段を駆け上がってきました」(北朝鮮ウオッチャー)

傍若無人な“謎の実力派通訳”

崔氏は中国、マルタ共和国、オーストリアなどに留学経験があり、英語と中国語を自在に操る才女だが、しばしば外交の場で傍若無人とも思える態度を見せていた。

「飛行機で移動する際、上司がエコノミーなのに、彼女はビジネスクラスに乗っていた。また、人目をはばからず大あくびをしたり、会議で団長を差し置いて発言したり、『上司より偉い通訳』『謎の実力派通訳』と呼ばれていました」(同)

そのため、良家の出身とも噂された崔氏だが、実際、彼女のやんごとなき力の源泉は、養父が金正日時代に首相を務めた崔永林氏であることだ。

「かつての北朝鮮では、朝鮮戦争やその復興の中で命を落とした愛国者の遺児を、党幹部が引き取って育てることが奨励されており、彼女も養女となって〝赤い貴族〟と呼ばれる特権階級に属したのです。将来の出世が約束され、周りからも一目置かれた存在ということになります」(同)

19年2月にベトナムのハノイで開かれた米朝協議は、李容浩外相(当時)と崔氏が外交の指揮を執った。2人は強気の交渉で押せば、功名心にはやるトランプ大統領(同)は同意するはずだと計算していたが、その目論見は外れた。

「トランプ氏が『寧辺の核実験施設+α』の廃棄を要求したことで、ハノイ会談は決裂しました。崔氏は、会談の会場から去ろうとするトランプ氏らを廊下まで追いかけたといいます。結果的に崔氏たちは計算に狂いがあったことを自ら認め、ハノイ会談後、李氏は外相を解任されましたが、崔氏は逆に第一外務次官に昇進している。正恩氏の覚えがめでたかったからです」(前出・外交関係者)

どちらも核兵器使用をためらわない

崔氏の背後には正恩氏だけではなく、北朝鮮の〝女帝〟こと金与正党副部長の影も見える。

「与正氏と崔氏は非常に近い関係です。崔氏は21年9月に一度、政府中枢から退きましたが、その間は与正氏と行動を共にしていたといわれました。与正氏もまた対米強硬派で知られており、今後の崔氏の外交政策には彼女の意向が深く関わってくるでしょう」(同)

朝鮮中央通信は6月24日、党中央軍事委員会の拡大会議で、前線部隊の作戦任務を追加し、戦争抑制力をさらに強化するための重大問題を承認したと伝えた。具体的な言及はなかったが、韓国では、北朝鮮が戦術核の実戦配備を進めるのではないかとの警戒感が広がった。

韓国でこうした懸念が広がるのには理由がある。

「4月4日、与正氏は『南朝鮮(韓国)は主敵ではない』と前置きしたうえで、『南朝鮮が軍事的対決を選択した場合には核兵器の使用をためらわない』とする談話を出しています。というのも、韓国の徐旭国防相(当時)が同月1日、陸軍ミサイル戦略司令部の改編式の席上で、『(北朝鮮の)ミサイル発射兆候が明確である場合は、発射地点と指揮・支援施設を打撃する』と発言。与正氏はこれを先制攻撃に言及したものとみなし、先の発言につながったのです」(軍事ライター)

与正氏は続けて、「南朝鮮がわれわれと軍事的対決を選択する状況が到来するなら、やむを得ず、われわれの核戦闘武力は自己の任務を遂行しなければならなくなる」と、有事に核兵器の使用をためらわない姿勢を示している。

これらの与正氏の談話には〝日本に対しても同じ姿勢で臨む〟というメッセージが込められているはずで、今後、2人の猛女が〝核カード〟をチラつかせ、強硬姿勢をあらわにしてくるのは間違いない。

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