蝶野正洋 (C)週刊実話Web
蝶野正洋 (C)週刊実話Web

蝶野正洋『黒の履歴書』~“引退宣言”した武藤敬司

俺のデビュー戦の相手であり、「闘魂三銃士」の盟友でもある武藤敬司が、ついにプロレスからの引退を宣言した。


武藤さんは1962年生まれの59歳とは思えないほどの肉体をキープしているけど、長年のダメージが体に蓄積していた。特にヒザが悪くて、普段は歩くこともままならない状態だったけど、4年前に人工関節の手術をして、プロレスリング・ノアに入団、トップ戦線に返り咲いていた。でも、今度は股関節を痛めてしまって、こちらも人工関節にするという。そうなると、もうプロレスは出来ないということで覚悟を決め、来年の春を目処にリングを去ることになったそうだ。


【関連】蝶野正洋『黒の履歴書』~“リバイバル”をより楽しむには… ほか

今後は「引退ロード」がスタートし、限定的に試合はしていくようだけど、ファンの間では早くも最後の試合がどういうカードになるかという予想合戦が始まっている。


以前から武藤さんはインタビューで「引退試合の相手は誰がいい?」というような質問を受けると、「蝶野正洋」の名前を出してくれていた。それもあって、武藤さんが引退を宣言してから俺のところに「楽しみにしてます」という声がたくさん届いてるんだよ。


俺はリングを離れてしばらく経つし、去年末に受けた手術のリハビリ中。とても試合が出来るコンディションではない。だから、現実的にはその可能性は低い。


そもそも、俺がそのタイミングで復帰したら、武藤さんの引退が霞んじゃうよ(笑)。でも、それもアリか。武藤さんが引退するときに俺が復帰して、また俺が引退するときには武藤さんに復帰してもらう。お互いに死ぬまでそれを繰り返すというのもいいかもな(笑)。

常にお客さんを意識して試合を

武藤さんが引退宣言をしたのは、さいたまスーパーアリーナで開催された『サイバーファイトフェスティバル』というビッグマッチで、その第8試合でノア対DDTの6人タッグマッチが組まれていた。その試合の序盤でノアの中嶋勝彦選手が、DDTのチャンピオンだった遠藤哲哉選手に張り手をブチ込み、遠藤選手が脳震盪でダウン。試合がストップしてしまうというアクシデントが起こった。

この1件はプロレスファンの間で賛否両論になっているんだけど、俺は誰が悪いというよりも、試合をちゃんと成立させられなくて、お客さんをガッカリさせてしまったことが一番よくなかったと思う。


脳震盪は危険だから、すぐにドクターチェックが入ったというのは当然の判断。遠藤選手が大事に至らなくてよかった。でも、そこで普通に試合を止めなくてもよかったんじゃないかな。


シングルマッチならKOで試合終了だけど、6人タッグだから、他の選手はまだ動ける。昔だったら、そこから2VS3のハンディキャップマッチにするとか、控室にいる他の選手が加勢するとか、そういう機転を利かせて盛り上げることをしてたと思う。ビッグイベントだから進行上の問題とかもあったと思うけど、お客さんに何を見せるのかということを常に意識するのがプロで、武藤さんはまさにそれを考え続けているタイプのレスラー。そんな男が、最後に所属している団体がノアというのも運命的。


武藤敬司は引退するまで「プロとは何か」ということを、身を持って教えてくれるはずだよ。
蝶野正洋 1963年シアトル生まれ。1984年に新日本プロレスに入団。トップレスラーとして活躍し、2010年に退団。現在はリング以外にもテレビ、イベントなど、多方面で活躍。『ガキの使い大晦日スペシャル』では欠かせない存在。