岸田文雄 (C)週刊実話Web
岸田文雄 (C)週刊実話Web

参院選後に“早期解散”へ!? 岸田政権に驚きの人物入閣で「脱・安倍」の動きか…

「新型コロナとの戦い、ロシアによるウクライナ侵略、物価高騰、こうした大きな課題を乗り越えることができるのは、自公政権しかありません」


岸田文雄首相は参院選が公示された6月22日、東日本大震災の被災地である福島市の街頭に立ち、勝利を訴えた。


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永田町や霞ケ関では「勝てば『黄金の3年』が待っている」とささやかれる。衆院選は、解散しなければ任期満了の2025年秋までなく、次の参院選も25年夏だ。首相はまるまる3年間、やりたい政策を存分にできるというわけだ。


実際、参院選の下馬評は自民党が優勢だ。立憲民主党は通常国会を通じて迫力を欠き、国民民主党に至っては22年度予算案に賛成するなど、野党の分断ばかりが目立った。


参院選では32ある1人区が勝敗の鍵を握るが、与野党が一騎打ちになったのは11選挙区にとどまるなど、野党共闘も進まなかった。


自民党が6月上旬に行った情勢調査では、改選と補充1の計125議席のうち、自民党61、公明党14と、与党で過半数を超える75議席を得るとの結果が出た。


物価高への懸念と「岸田インフレ」批判の強まりから、内閣支持率は数ポイント下がったが、このまま逃げ切れば、首相は念願の本格政権を立ち上げることができるのだ。


だが、選挙に精通した自民党関係者は話す。


「黄金の3年なんてあったためしがない。首相は来年にも衆院を解散するのではないか」


確かに、これまで長期政権を担った小泉純一郎、安倍晋三元首相の2人は、「黄金の3年」を堪能する機会があったにもかかわらず、早期解散を断行した。


関係者によると、小泉氏は周囲によく「解散は自分の政権をつくるためにやるんだ」と語っており、薫陶を受けた安倍氏も同じ考えだという。


「小泉氏は03年と05年に、衆院解散・総選挙に踏み切ることで自民党内の対抗勢力をたたきのめした」(前出・自民党関係者)


野中広務元党幹事長らの橋本派と、亀井静香元建設相ら「郵政民営化反対組」のことだ。

“異例”の出世

安倍氏は14年に解散し、圧勝してライバルの石破茂元幹事長らを封じ込め、「安倍1強」体制を確立した。

岸田首相がこれらの故事に倣えば、「自分の政権」をつくるためには、安倍氏と対峙するしかない。


「安倍氏の影響力をそがなければ、本格政権も長期政権も無理だ。そのためには解散しかない。早ければ早いほうがいい」(同)


自民党岸田派のベテラン議員は、「永田町だけでない。解散して勝ち、霞ケ関で思い切った人事をすることこそが、本格政権の要諦だ」と同調する。


その霞ケ関ではまさに、岸田首相と安倍氏の関係の行方を占う人事があった。


参院選公示に先立つ6月17日に決まった財務、防衛両省の幹部人事で、財務省では安倍氏が凱歌を上げたが、防衛省では首相が安倍氏を押し切ったのだ。


財務省人事の焦点は、事務次官昇格が決まった茶谷栄治主計局長の後任だったが、下馬評通りに新川浩嗣官房長に決定した。新川氏は18年7月から2年あまり、安倍政権で首相秘書官を務めており、安倍氏に近い。


官邸関係者は「2年前、安倍氏が登竜門の官房長に押し込み、すでに勝負はついていた」と話す。


だが防衛省では、安倍氏が首相に続投を求めていた島田和久事務次官の勇退が決まった。島田氏は、安倍氏の首相秘書官を6年半も務めた。


「岸田首相側が春ごろから安倍氏側に、『交代させたい』と告げていた」(前出・官邸関係者)という。


そしていま、攻防が繰り広げられているのは外務省だ。先の岸田派ベテラン議員は、首相に「ナンバー2の鈴木浩外務審議官は交代させるべきだ」と進言してきたという。鈴木氏こそ、霞ケ関で「特A級の安倍印官僚」(同)だからだ。


鈴木氏も安倍氏の首相秘書官を務めたが、期間は7年半あまりに及ぶ。しかも、安倍氏が官房長官時代にも秘書官に、第1次政権では副報道官に就き、合わせて約9年も安倍氏に仕えた。外務省に戻ると、局長を経ずに外務審議官に就く「異例」の出世を遂げた。


人事は最終調整中だが、留任すれば岸田首相のひのき舞台になる来年のG7広島サミット(首脳会議)を、鈴木氏がシェルパ(実務責任者)として仕切ることになる。


安倍氏に押し込まれたのは人事だけではない。


政府は6月7日の経済財政諮問会議で、将来の経済財政運営の指針になる「骨太の方針」を決定した。焦点は防衛費増額の数値目標と、財政健全化の年次目標を盛り込むかどうかだったが、安倍氏はここでも攻勢を強めた。


防衛費増について、首相は5月の日米首脳会談で、バイデン大統領に「抜本的な増額を目指す」と表明した。だが、骨太決定に当たっては、「数字ありき」になりかねない数値目標の導入には慎重だった。

日米関係は安倍氏なしでも…

一方で、重視してきた財政健全化目標の記載は譲れず、政権内では決定直前までせめぎ合いが続いた。

結局、防衛費について首相側は「対国内総生産(GDP)比2%以上」の明記を迫る安倍氏側に折れ、北大西洋条約機構(NATO)が加盟国に「2%以上」の水準を求めているとの記載を加えて、日本も同じレベルを目指すと読めるようにした。


また、財政健全化目標も、「アベノミクスの否定につながる」と強く反発する安倍氏ら積極財政派を抑えきれず、当初案にあった「25年度」を削除し、事実上後退した。


これらは、安倍氏に近い高市早苗自民党政調会長が、6月16日に発表した参院選公約にも反映された。


「いまや『岸田カラー』はすっかりどこかに行ってしまった」


官邸関係者は嘆く。


色があせたとはいえ、岸田首相は就任して9カ月、政権を支える麻生太郎党副総裁や茂木敏充幹事長、側近の木原誠二官房副長官らと、参院選後を見据えて政策を練り上げてきた。


前出の官邸関係者は「首相に『脱・安倍』ができるかどうかだ」と話す。


参院選では物価高が最大の争点になったが、岸田政権は基本的に「インフレ容認」だ。年2%程度の物価上昇を目指すことにおいてはアベノミクスを踏襲しているが、首相は経済成長もさることながら、財政再建に力点を置く。名目値であっても経済規模が拡大すれば、消費税や法人税の増収が見込め、財政再建に資するからだ。


25年の健全化目標の堅持では「麻生、茂木両氏とも一致」(官邸関係者)しており、参院選後は自民党の「財政健全化推進本部」を強化し、安倍氏が主導する積極財政派の「財政政策検討本部」の議論を抑え込みたい意向だ。


首相は、日米関係についても脱・安倍を図る構えだ。外務省幹部によると「首相はバイデン氏訪日で自信を深めた」という。


「バイデン氏も所得再分配を重視しており、『新しい資本主義』を掲げる首相と意気投合していた」(同)


中でも、米国製武器の大量購入につながる防衛費の大幅増を約束し、長らく米側を苛立たせてきたロシアとの「友情関係」を切ったことも、バイデン氏は「高く評価した」という。


つまり、「安倍氏なしでも日米関係を進められる」というわけだ。


もちろん、参院選後の態勢を整えなくては政策を推進できない。ここでもキーワードは脱・安倍だ。首相は6月13日、東京・虎ノ門のホテル『The Okura Tokyo』の日本料理店で、麻生、茂木両氏と松野博一官房長官の4人で会食。

衆院解散は“広島サミット”後か…

自民党関係者によると、参院選後も「政権の軸はこの4人だと確認した」という。これは、安倍氏が首相に促している幹事長交代を、拒否することに他ならない。

茂木氏は「続投希望」(自民党関係者)だが、首相と麻生氏は財務相へのスライドを模索しており、この場合は後任として「同じ茂木派の小渕優子党組織対策本部長や、谷垣グループの遠藤利明選対本部長の名前が取り沙汰されている」(同)という。


松野氏は安倍派だが、安倍氏と距離がある福田康夫元首相に近く、派内でも福田達夫党総務会長らとともに「非安倍系」に数えられる。官房長官には岸田派のベテラン議員が意欲を示すが、首相は松野氏の続投に傾いているとの観測だ。


首相はウルトラCも模索しているという。菅義偉前首相の取り込みだ。自民党関係者が話す。


「菅氏は『やり残したことがある』と言っており、副総理ならまんざらでないはずだ」


菅氏が入閣すれば、将来の「菅派」の中核になると目される二階派や森山派に加え、菅氏に近い小泉進次郎前環境相らも「味方」につけられる。長期政権を目指す最大の障害こそが安倍、菅両氏の連携であるだけに、意味するところは大きい。


自民党関係者は、首相の思惑通りに進めば衆院解散は「広島サミット後なら常在戦場になる」と話す。


「24年秋の党総裁選とセットでタイミングを探るだろう。来年秋から冬にかけての時期が、一番可能性が高い」(同)と見立てる。


岸田首相側の動きに対して、安倍氏はどう出るのか。安倍氏に近い自民党関係者は「物価高批判が利いて、参院選の風向きが変わってきている。だからこそ、安倍派の候補を一人でも多く勝たせるため、安倍さんは全国を駆け回っている」と話す。


確かに政権の勢いには陰りが見えており、党内からは「改選議席55を超えて60に届くかと思ったが、苦戦するかもしれない」との声が漏れる。


こうした中で安倍派候補が全勝すれば、党内での安倍氏の影響力がより高まるのは確実だ。


安倍派は比例代表を含めて、現職を中心に派内の改選数より1人多い15人を擁立。全員の当選と、数人の新人を取り込んでの「勢力拡大」を目指している。


安倍氏は6月22日、東京・有楽町でマイクを握り、候補者の横で「金融を引き締めたら、悪夢のような時代に戻る」と、アベノミクスの継続を訴えた。


前出の自民党関係者は先を見通す。


「参院選後、安倍派が衆参合わせて100人を超えれば、首相はたやすく脱・安倍などできない。他派閥にもシンパは多い。安倍さんは積極財政と防衛費の大幅増は譲らない」


安倍氏は派内の「ポスト岸田」候補として、最側近の萩生田光一経済産業相に加え、西村康稔元経済再生担当相、稲田朋美元防衛相の2人を推し立てようとしている。


6月初めに二階俊博元幹事長と会食した際には、西村、稲田両氏を同伴させた。その数日前には菅氏と会食し、早期の「菅派」結成を促した。安部氏が「菅・二階氏ライン」を、自らの方に引き留めようとしているのは明らかだ。


参院選後、政界の景色はどう変わるのか。岸田首相が早期解散へ足場を固めるのか、それとも基盤が揺らぎ、「安倍院政」の色彩内に亀裂が生じる事態もあり得るのか。すべては参院選の結果で見えてくる。