日本全国☆釣り行脚~『ヒイラギ』~高知県高知市/浦戸湾奥産

12月も半ばとなり、街中のそこかしこで、きらびやかな装飾が目に入る季節となりました。嗚呼、もうクリスマスか…。本当に早いですなぁ。

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さて、クリスマスの装飾品としてよく目にするモノといえば、柊(ヒイラギ)です。厳密に言うと、ヨーロッパなどで〝クリスマスホーリー〟と呼ばれるのは「セイヨウヒイラギ」でして、実は日本のヒイラギとは別モノだったりします。

まぁ、そんな無粋なうんちくはさておき、魚にも「ヒイラギ」という名称が付いたヤツがいます。姿形が柊の葉に似ていることが命名の由来であり、漢字も植物と同じものが当てられています。内湾でシロギスを狙っていると頻繁にハリに掛かるこの魚は、鋭いトゲがあることに加え、体表に多量の粘液をまとっており、最大でも15センチほどという大きさなので、釣り人からはあまり歓迎されません。しかも群れで動く習性があるため、ひとたび釣れ始めると連発…なんてことも珍しくはなく、どちらかというと邪魔者扱いされることが多い存在です。

そんなヒイラギを狙おうと、浦戸湾に面した岸壁へと出向きました。広い岸壁には同志と思しき釣り人が1人いるだけ。平日の日中とあってガラガラです。適当な場所に陣取り、市販のシロギス用の仕掛けにエサの砂虫(ジャリメ)を付けて、軽く投げ入れます。

「ブルルンッ!」

ほどなくして竿先が元気に揺れ、何かが掛かりました。ヒイラギにしては少々強めの手応えで釣れ上がったのは、手のひら大のヘダイ。タイ科に属する旨い魚ですから嬉しい外道です。

それにしても、意識していないときにはイヤというほど釣れる邪魔者が、いざ狙うと釣れない…。あらためて釣りって不思議なものですなぁ。

エサを付け替えて再び投入すると、またしてもすぐに竿が揺れました。先ほどよりも弱々しい手応えを感じながら巻き寄せてくると、白銀の平べったい魚影がキラリ!

本命ヒイラギの登場です。多量の粘液とトゲが嫌なのでタオルでつかんでハリを外し、バケツに放り込みます。

ヨッシャ~!

ここからは順調にアタリが続き、ときには一荷(2本バリに2尾)で掛かるほど。まずまずのペースでバケツの中のヒイラギが増えていきます。嬉しいことに、ヘダイやシログチ、ハゼといった美味しい外道も交じってくるので飽きることがありません。

今回竿を出した浦戸湾は、湾口部が狭く、流入河川の多い、いわば大阪湾や東京湾のミニチュア版といった地形。このような環境は河川の流入により栄養が豊富なため、何かと魚も多いんですな。反面、その栄養の需給バランスが崩れてしまうと著しい汚染に繋がってしまうのですが…。

高度経済成長期の浦戸湾は、〝高知駅に降り立つとドブ臭い〟とまで言われるほどに汚染された過去があります。1971年の高知パルプ生コン事件の際には、廃液の垂れ流しを止めない企業と、動かない行政に業を煮やした有志が、工場の排水管に生コンを流し込む実力行使に出るという事件まで勃発しています。いや~、さすがは土佐の〝いごっそう〟、実に漢らしい豪快さです。

そんな浦戸湾も現在ではかなり環境が改善され、投入の度に「ブルンブルン!」と元気に揺れる竿先を眺めつつ、ひとしきり初冬の小物釣りを堪能できました。おかずには十分な量を確保できたので、日のあるうちに竿を納めることにしました。

邪魔者扱いされているのがもったいないほどの味!

持ち帰ったヒイラギは、潮汁と煮付けにして晩酌のスタートです。潮汁は当地で〝ニロギ汁〟と呼ばれる郷土料理。汁の表面には旨そうな脂が染み出しており、小魚ながら侮れません。ズズッとすすると、上品な出汁がしっかりと感じられる素朴な味わいは、ホッと心まで温まります。

煮付けも旨味が濃く、身離れも良好で箸が進みます。邪魔者扱いされているのが、もったいなく感じられるほどの味のよさです。