
「トカゲの尻尾切り」田中角栄の事件史外伝『史上最強幹事長―知られざる腕力と苦悩』Part3~政治評論家・小林吉弥
至難の「日韓国会」を乗り切り、改めて辣腕ぶりを見せつけた格好の田中角栄幹事長は、昭和41(1966)年8月の内閣改造と党役員人事で、2期目の幹事長として留任した。
【関連】田中角栄の事件史外伝『史上最強幹事長―知られざる腕力と苦悩』Part2~政治評論家・小林吉弥 ほか
この昭和41年という年は、ザ・ビートルズが来日、日本国内に旋風を巻き起こすなどの一方で、どういうものか航空機の墜落事故が相次いだ。
2月の全日空(ANA)ボーイング727、3月のカナダ太平洋航空DC-8、同じく3月に英国海外航空ボーイング707、11月には全日空YS-11といった具合である。こうした航空機墜落事故が相次ぐ中で、2期目の田中幹事長のポストも、就任からわずか4カ月で〝墜落〟、すなわち更迭を余儀なくされることになった。
更迭理由は、閣僚および自民党議員らによるよもやのスキャンダルの続出、世に言われた「黒い霧事件」の責任を取らされたということであった。以前にも記したように、田中が新しいポストに就くと、必ず〝事件〟が立ちふさがるのである。幹事長のここでも、またそれが起きたということだった。
まず、田中が2期目の幹事長に留任する直前、それまで何かときな臭さを噂され、「刑務所の塀の上を歩く男」との陰口もあった田中彰治という自民党衆院議員が、国際興業社主の小佐野賢治から1億円を恐喝し、詐欺容疑なども含めて逮捕、辞職を余儀なくされた。田中彰治は田中角栄の旧中選挙区〈新潟3区〉のお隣の〈新潟4区〉選出代議士であり、角栄にとっては「刎頸の友」と言われた小佐野の名前が出たことで、「田中幹事長も肝を冷やしたのではないか」との〝臆測〟も出た。
「国民に信を問うべき」の大合唱
また、前後して運輸大臣に就任したばかりの荒船清十郎代議士が、「一つぐれェいいじゃないか」の〝迷文句〟で国鉄のダイヤ改正に合わせ、高崎線の急行列車を自分の選挙区内の埼玉県・深谷駅に停車させるよう原案を改めさせたことも発覚、この荒船も閣僚更迭となった。さらに、農林大臣の松野頼三(松野頼久前代議士の父)が、新婚の頼久夫妻らと一緒に外国を〝官費旅行〟していたこと、さらには「共和製糖」グループの政治家絡みの不正融資事件なども明るみに出たことで、政府と自民党に対する国民の信頼感は大きく失墜していた。
こうした一連の不祥事の中、佐藤(栄作)政権は11月に臨時国会を召集せざるを得なくなった。これは「黒い霧国会」と呼ばれ、野党は冒頭から審議拒否、「衆院を解散、総選挙で国民に信を問うべき」との大合唱が湧き起こった。
しかし、佐藤首相とすれば、こんな世論の大逆風の中で解散・総選挙となれば、自民党の惨敗は必至であり、ひとまず野党と世論を納得させて臨時国会を乗り切るには、大幅な内閣改造・党役員人事を断行するしか選択の余地はなかった。
結果、12月1日になって、まず党役員の川島正次郎副総裁と田中幹事長を更迭、次いで3日には内閣改造を断行した。要するに〝トカゲの尻尾切り〟で、佐藤首相は辛くも政権の危機を乗り切ったのだった。幹事長の田中としては、一連の事件の泥をかぶった格好だったのである。
ちなみに、この「黒い霧国会」は、川島や田中を更迭、あるいは内閣を改造して国会が正常化を取り戻すまで、野党の審議拒否が続き、自民党単独審議と野党の〝牛歩戦術〟による深夜国会の連続であった。
そうしたさなかに、こんな田中の人間性を見たと、田中幹事長を自民党本部幹事長室の室長として見詰めてきた奥島貞雄が、自著で次のように記している。
「夜遅く幹事長室にいると、幹事長はまずわれわれに声をかけてくる。『君ら、もう遅くて自宅には帰れんだろう。宿はあるのか、おい、○○君!』といった調子で秘書を呼び、『ホテルを取ってやってくれ』と言い残しては、自分はあたふたとまた幹事長室を出ていくのだった。連日、野党折衝や政治判断でクタクタになっているはずの人が、われわれのような若い党職員の一人一人にまで、よくも気が回るものだと感心させられた。
「気配り幹事長」の真髄
また、野党の牛歩戦術で徹夜国会になると、わが党の議員は3班に分かれ、2班が本会議に出席している時に、残りの1班は毛布を持ち込んで議員控え室で仮眠するという態勢を取った。たまたま〝出席組〟だった田中幹事長が、皆が仮眠している控え室に書類を取りに来たことがあった。
幹事長が来たことで寝ていた副幹事長らが起き上がろうとすると、田中幹事長が『シーッ』と口に指を当て、他の人たちを起こさないように抜き足差し足、引き出しもそっと開けて書類を取り出し、また物音を立てないように部屋を出ていったものです。私も毛布の中から、そんな幹事長の表情を薄目で追っていたが、改めて気遣いのできる人だと実感した」(『自民党幹事長室の30年』=要約)
幹事長を辞めた田中は、「そんなものを誰がするか」とまで言っていたゴルフに熱中する一方、「天下取り」の〝下準備〟をするチャンスを手にするのだった。
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