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やくみつる☆シネマ小言主義~『マーベラス』/7月1日(金)より全国ロードショー

『マーベラス』
Ⓒ2021 by Makac Productions, Inc.

『マーベラス』
監督/マーティン・キャンベル
出演/マギー・Q、マイケル・キートン、サミュエル・L.ジャクソンほか
配給/REGENTS

無駄を削ぎ落とした、シンプルなアクション映画です。ストーリーは単純明快。

考えさせるような複雑な伏線もありません。〝されど面白い!〟と感じるのは、さすがは数ある007シリーズの中でも傑作といわれる『007/カジノ・ロワイヤル』『007/ゴールデンアイ』を手掛けた監督の作品。手練れとも言えるスタイリッシュで疾走感のある映像に、見始めたら夢中になります。

原題は『マーベラス(超一流)』。勝手に邦題をつけるとすると「敵ながらアッパレ!」でしょうか。親代わりの師匠を殺され、復讐に燃える暗殺者アンナVSターゲットの護衛を請け負ったプロのセキュリティー、レンブラント。2人は、互いの殺人スキルを「マーベラス(素晴らしい)」とリスペクト、なんなら愛し合ってると言ってもいい。スポーツの好敵手が認め合うような、小気味の良さがあります。

何と言っても、主人公のアンナを演じるマギー・Qが格好いい。ベトナムの血も流れるエキゾチックな容姿と、鞭のように、キレよくしなるスレンダーな体。彼女の魅力を遺憾無く表現するために、髪型もファッションも展開に沿ってシンプルに変わっていきます。お色直しですね。表の職業が、ロンドンで古書店経営というのもインテリの極みです。

美しい暗殺者として成長

対する、悪の護衛官、レンブラント、マイケル・キートン。正直、それほど若くも、背が高くもない、見た目は初老の男です。プロフィールを確認したら、マギー・Qとは28歳違い。それで堂々とこの美女と体を張って戦い、認めさせるのですから〝マーベラス〟に違いありません。特に、2人の知的な会話の応酬が、華麗なアクションシーンより魅力的に映ります。つまり、自信と才能があれば何歳になっても口説けるということ。我々のようなジジイにとっては、朗報やも。

さて、作品のはじめでアンナが、なぜ師匠ムーディのサミュエル・L.ジャクソンにプロの殺し屋として育てられたのかという経緯が分かります。ベトナムのダナンに住む家族に起きた凄惨な皆殺し事件。1人生き残り、恐怖におののきながらも銃で仇を討った少女が才能を認められ、美しい暗殺者として成長します。

正直、こんな美女じゃなくてもいい。ランボーでもシュワちゃんでもいいから、誰かプーチンをやっちゃってくれないかなと。

ウクライナ侵攻からすでに数カ月。容赦ない攻撃と悲惨な被害報道に疲れ、終わりの見えない現実を収束してくれるプロの登場を夢想してしまいます。

やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。

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