『家族不適応殺 新幹線無差別殺傷犯、小島一朗の実像』KADOKAWA/1870円
インベカヲリ★
1980年、東京都生まれ。写真家。短大卒業後、独学で写真を始める。編集プロダクション、映像制作会社勤務などを経て2006年よりフリーとして活動。18年第43回伊奈信男賞を受賞、19年日本写真協会新人賞受賞。ライターとしても活動している。
――本書は2018年6月9日に発生した東海道新幹線内での無差別殺傷犯の実像に迫っています。取材をしようとしたきっかけはなんだったのですか?
インベ 写真家としての活動を通して、人の「語り」の重要性を感じていました。一切の否定をせずに、ひたすら聞き役に徹していると、表面的な行動の裏にある、別の理由というのが見えてくることがよくあるからです。
事件の犯人・小島一朗は「刑務所に入りたい」などと意味不明なことを呟いており、弁護人も鑑定医も、その奥にある核心に迫ることができません。私は人間のやることには、すべて意味があると思っています。意味不明な犯行動機で事件を起こす無差別殺傷犯が現れたら、直接会って話をしたいと思っていました。
――取材は約3年間と長期にわたっています。かなりハードだったのでは?
インベ コミュニケーションには苦戦しましたね。相手はかなりの人間不信で、中身はただの傷ついた子供です。それが大人の姿をしているのですから、たちが悪い。
初対面のときは、いかに自分が人の命をなんとも思っていないかということをヘラヘラ笑いながらアピールしていましたが、私がふと目を離した隙に、一瞬だけ険しい目でこちらを見ているということがよくありました。私がどんなリアクションをするのか観察しているのです。結局〝普通の会話〟ができたと感じたのは、13回の面会のうち、ラスト6回だけでしたね。
最終的に諦めて事件を起こす…
――他に犯人・小島一朗の印象は?
インベ 小島が求めていたのは、〝家族〟ただその一点のみです。そのために無差別殺傷事件を起こしています。一見すると飛躍していますが、小島の中では論理が一貫しています。そして、家族なしでは生きていけないのが人間なんだ、という自覚も彼の中にあります。最終的に家族を諦め、国家に家庭を求めて事件を起こしたわけですが、家族への復讐も兼ねているのではないかと思います。
――目的は死刑、無期懲役になることだったと言っています。出所したらまた罪を犯すと思いますか?
インベ 無期懲役ですと30年以上(刑務所に)入ることになります。それくらいの時間が経てば、さすがに考えも変わっているのではないでしょうか。小島のようなタイプは、誰かが愛情を持って向き合い、認知の歪みを修正していくしかないと思います。この先、問題行動をする理由がなくなったとき、初めて後悔が生まれ、刑罰が意味を成すのではないかと思います。
(聞き手/程原ケン)
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