“米国ファースト”が見せた自国防衛の必要性~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

米国のバイデン大統領は5月31日付の米紙ニューヨーク・タイムズに寄稿し、ロシアとウクライナ戦争について語った。そのなかで「ロシアが自らの行為による報いを受けないなら、侵略者になりそうな他の勢力に対し、彼らも他国の領土を獲得して支配下に置くことができるというメッセージを送ることになる」と述べて、ロシアへの制裁を正当化した。


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ただ、その一方で「米国はプーチン大統領の追放を模索しない」とも述べて、ロシアの体制転換を否定した。バイデン大統領は3月26日、ポーランドの首都ワルシャワで演説を行った際、プーチン大統領について厳しく批判したうえ、「この男が権力の座にとどまり続けてはならない」と語っており、そのことから考えると大きな方針転換だ。


バイデン大統領は先の寄稿のなかで、「この戦争は最終的に外交的解決しか道はない」と述べている。つまり、和平実現に向けてプーチン大統領にも一定の配慮を示し、ロシアとウクライナの停戦協定によって、戦争を終結させる腹積もりなのだ。


また、米国はウクライナに、高性能ロケット砲システムを新たに供与することを明らかにしたが、本来300キロある射程を80キロに制約し、ロシア本土を攻撃しない約束をウクライナから取り付けたと、米政府高官は明らかにしている。ロシアとの全面戦争は望まないが、戦況が不利では、ウクライナが領土面で大幅な譲歩をせざるを得なくなるので、同国に交渉力を持たせようとする配慮だ。

安全保障を見直す時期

プーチン大統領は、大きな犠牲を払った特別軍事作戦を戦果なしで終結させることができない。一方、米国にしても、ロシアに無制限の領土拡大を許すわけにはいかない。だから、できるだけ被害を小さくするため、ウクライナに支援を行うという戦略だ。米国内では、すでにクリミア半島の割譲は避けられないとの意見も出ているという。

しかし、こうした米国の戦略は、「武力による国境変更を許さない」という第二次世界大戦後の国際秩序を破壊するものだ。ただ、それを許してでもバイデン大統領は、ロシアとの直接衝突を避けようとしている。正義よりも米国の実利を優先するという考えだ。


こうしたバイデン大統領による〝米国ファースト〟の姿勢は、先の日米首脳会談でIPEF(インド太平洋経済枠組み)の創設を提唱したときから明らかだった。アジア地域での中国の影響力拡大を憂慮したバイデン大統領は、中国を排除した形での経済連携をつくろうとしている。


しかし、もしそうなら米国の提案で始まったTPP(環太平洋パートナーシップ協定)に、米国が復帰すればよいだけの話だ。ところが、TPPに復帰したら、米国も関税引き下げに踏み切る必要がある。それが嫌だから、関税引き下げを含まないIPEFの創設を提唱してきたのだ。


私は、米国が世界のことではなく、自国のことだけを考えるようになっているという事実は、日本も安全保障を見直す時期に来たことを意味すると思う。日米同盟をいくら強化しても、いざというときに、米軍が日本のために血を流してくれるとは限らない。だから、やはり自分の国は自分で守らなければならないことをウクライナ戦争は明らかにしたのだ。


岸田文雄総理は、相当規模の防衛費の拡大を表明しているが、本当に必要なのはイージス艦など米軍の支援をするための装備ではなく、日本人が日本を守るための装備である。日本には、ますますドローンや対戦車砲、対空ミサイルが必要になっているのだ。