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第一標的は日本か…ロシア・中国・北朝鮮『新・悪の枢軸』が世界を滅ぼす!?

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アメリカのバイデン大統領が訪日していた5月24日、日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4カ国で構成される「QUAD(クアッド)」の首脳会談が東京で開催された。

しかし、華やかな舞台の裏で一触即発の事態が起きていた。中国のH6爆撃機2機と同機種とみられる2機の4機と、ロシアのTU95爆撃機2機の計6機が、日本海と東シナ海、太平洋までの長距離を共同飛行し、航空自衛隊の戦闘機が緊急発進(スクランブル)する事態となったのだ。

クアッドという枠組みの本質が「中国包囲網」だけに、中国が日本を威嚇するのは分かるが、これにロシアが加わったことが衝撃的だった。翌25日には北朝鮮が、中国とロシアに歩調を合わせるかのように、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射している。

「バイデン氏はプーチン氏に『長期的な代償を払わせる』と警告しており、もし中国が台湾に侵攻した際には『軍事的に関与する』とも発言している。北朝鮮はバイデン氏が帰国した直後、まるで追い打ちをかけるようにICBMを発射したが、これは中国とロシアを〝援護射撃〟したことに他ならない」(外交筋)

中国とロシア、北朝鮮を図らずも接近させたのが、2月24日に勃発したウクライナ戦争だ。ロシアの侵攻は当初の思惑通り進まず、西側諸国の制裁により国内経済も追い込まれつつある。

プーチン大統領自身についても、たびたび健康不安説や重病説が流れ、退陣の噂も絶えない。ロシアのスパイ組織、連邦保安局(FSB)の諜報員の話として、がん宣告を受けたプーチン氏が「余命3年」との報道もあった。

ウクライナの裁判所により、ロシア軍兵士の戦争犯罪も裁かれ始め、やがては最高司令官であるプーチン氏も訴追される可能性が高い。その場合、ロシア国外に出られなくなるなど、政治家としての立場も厳しくなっている。

ウクライナ侵攻はオリンピック後…

プーチン氏の愛人とされる元新体操選手、アリーナ・カバエワ氏は、イギリス内の資産を凍結され、同国への渡航を禁止されるなどの制裁も受けた。

こうした危機説について、プーチン政権の崩壊を願う「希望的観測」が反映されているとの見方もあるが、クレムリン(大統領府)の内外で不穏な空気が流れているのは事実のようだ。

そんなロシアに救いの手を差し伸べたのが中国だ。ウクライナ侵攻開始の直後、2月25日に開かれた国連安全保障理事会で、ロシア軍の即時撤退を求めた非難決議案の採決を中国は棄権。また3月2日の国連総会緊急特別会合においても、同様の採決を棄権している。

欧州連合(EU)は6月4日、ロシア産原油の輸入禁止措置を発動し、年末までに約9割が禁輸となる。これによって、本来ならロシア経済は大打撃を受けることになるが、余った分は中国が吸収しようとしている。原油や天然ガスなどのエネルギー資源、そして小麦などの穀物は、中国にとってのどから手が出るほど魅力的だ。

「日本がサハリンの原油や天然ガスの権益を手放せないのも、中国に奪い取られることが目に見えているからです」(前出・外交筋)

習近平国家主席が最重要視していた今年2月の北京オリンピックでは、欧米や日本の首脳が人権問題を理由に外交的ボイコットを表明する中、プーチン氏は開会式に出席し、習氏と首脳会談を行って蜜月関係を強調。プーチン氏は習氏の顔を立て、オリンピックが閉幕した後にウクライナ侵攻を開始した。

「ウクライナ侵攻当初の大失敗ぶりに、習氏がプーチン氏を見限ったとの観測もあった。しかし、実際にはその後も、陰に陽にロシアを支えているのが実情だ」(大手紙外信デスク)

独裁国家3国は持ちつ持たれつ

その背景には、習氏自身の微妙な立場がある。中国では今秋、5年に一度の共産党大会が開かれ、そこで習氏が慣例を破り3期目に突入、つまり党総書記と国家主席を5年間続投するというのが既定路線だった。

しかし、新疆ウイグル自治区の人権侵害が国際的に問題視されたほか、香港や台湾をはじめ東シナ海や南シナ海の周辺国など、アジア各地から中国に批判の声が噴出した。

さらに「ゼロ・コロナ」を掲げた新型コロナウイルス対策にも、中国国内から疑問符が付き、習氏の〝3選〟が危ういとの指摘が急速に強まってきたのだ。

中国は拡大路線で南太平洋にまで乗り出したが、安全保障分野での合意を取り付けることに失敗。国際社会で孤立を深めれば深めるほど、ロシアとの関係が強固になっている。

そして、両国の蜜月ぶりを利用しているのが、北朝鮮の金正恩総書記だ。今年に入って過去最多ペースで、弾道ミサイルの発射を繰り返しているが、国連安保理の非難決議は、中国とロシアが拒否権を発動して否決されている。

また、日米などが経済制裁を科している北朝鮮に対して、中国とロシアは密かに支援を続けているとみられる。ミサイルなどの兵器も、ロシアから北朝鮮に導入されたものが多く、逆に北朝鮮のIT技術者が中ロ両国で密かに活動するなど、お互いに持ちつ持たれつの関係だ。

ロシア、中国、北朝鮮は3国とも事実上の独裁国家で、指導者の危機感も共通している。

「プーチン氏が追い詰められることに、最も恐怖心を覚えているのは習氏と正恩氏だ。90年代の旧ソ連崩壊や東欧諸国の民主化、2010年に始まった『アラブの春』でも、一国で独裁政権が打倒されると、ドミノ倒しのように他国にも波及するという現象があった。中国と北朝鮮にとっては、むしろロシアのウクライナ侵攻が長期化してくれたほうがありがたいだろう」(前出・外信デスク)

最悪の事態にも備える必要がある

アメリカのジョージ・W・ブッシュ大統領は政権当時の02年、一般教書演説で北朝鮮、イラン、イラクを批判する際に、その総称として「悪の枢軸」という言葉を使った。これらの国々は「ならず者国家」とも呼ばれ、国際テロの温床であると懸念されたが、現在の「シン・悪の枢軸」の脅威は比較にならない。

中国は世界第2位の経済大国で、核兵器を含む軍事力を年々増強させている。ロシアも旧ソ連時代から言わずと知れた核大国で、北朝鮮も事実上の核保有国だ。

日本にとって脅威なのは、中国とロシア、北朝鮮がいずれも列島を取り囲む「隣国」であることだ。

防衛省のシンクタンク、防衛研究所のレポート『ウクライナ戦争の衝撃』は、中国がロシアとの関係を強めれば「国際社会との分断を招くかもしれない」と指摘し、「中国がロシアを抱え込む戦略的リスクは大きい」と論じた。

一方で「いざというときに核を使うというロシアの『決意』が、米国のそれを上回っている」とし、アジアでも中国のほうが、米国より核を使う〝ハードル〟が低いと分析している。

ここ数年における日本の外交戦略はロシアと中国の分断だったが、ウクライナ戦争でその構図は崩れた。

「ロシアは沖縄県の尖閣諸島や台湾海峡の問題について、これまで静観してきたが、今後は中国寄りの姿勢となる可能性が見えてきた。ロシアが中国と足並みをそろえ、北方領土を含む北海道に軍事的圧力をかけてきてもおかしくない。そうなると北朝鮮が、弾道ミサイルを東京周辺に撃ち込んでくるという最悪の事態にも備える必要がある」(前出・外交筋)

日米は安全保障条約で同盟関係にあるが、ウクライナ戦争を見ても分かるように、アメリカはロシアと直接戦火を交えることには消極的だ。現実の戦争が、日本にとって対岸の火事でなくなる日が近づいている。

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