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大鵬幸喜「あんな相撲をとった自分が悪い」~心に響くトップアスリートの肉声『日本スポーツ名言録』――第6回
第48代横綱として優勝32回を誇り、日本の高度成長期に国民的スターとして君臨した大鵬幸喜。今年の夏場所には孫の王鵬が再入幕。同じく孫の納谷幸男はDDT所属のプロレスラーとなり、その格闘遺伝子は現在まで続いている。
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ロシア軍の侵攻を受けながら、反撃して撤退に追い込んだと伝えられるウクライナ東北部のハルキウ市。ここには大横綱・大鵬幸喜の記念館がある。
大鵬の父であるマルキャン・ボリシコさんは、ロシア革命の時代に亡命して、当時、日本の領土だった樺太(現在のサハリン)で納谷キヨさんと結婚し、大鵬をもうけている。
だが第二次世界大戦末期にはマルキャンさんが外国人居留区に隔離され、そこにソ連軍が侵攻してくると母子だけが北海道へ渡り、マルキャンさんはソ連軍の捕虜となった。
のちにサハリン在住の日本研究家による調査で、マルキャンさんが強制収容所生活などを経てサハリンで生涯を閉じたことが2001年に明らかになると、マルキャンさんの故郷であるハルキウに、大鵬記念館が建てられたのだった。
父と別れてからの大鵬は、中学卒業後、北海道で働きながら定時制高校に通っていたが、16歳のときに巡業でやってきた二所ノ関親方(元大関・佐賀ノ花)のスカウトを受けて、1956(昭和31)年に入門を果たす。
稽古につぐ稽古で生まれた相撲
同年の9月場所に、本名の「納谷」で初土俵を踏むと、すぐに横綱確実の大器と将来を嘱望されるようになり、「二所ノ関部屋のプリンス」とも称された。そんな期待に違わず順調に出世すると、59年の夏場所に十両昇進。この時に親方から大鵬の四股名を与えられる。北海道出身の力士は「北」の字の入った四股名になることが多かったが、中国の古典から取ったという「大鵬」の名は、かねてから親方が「最も有望な弟子につけよう」と温めていたものだった。
腰を引いた姿勢でもろ差しからしっかり相手を受け止めると、前傾姿勢で圧力をかけていく。「逆くの字」とも呼ばれた前屈みのスタイルは、190センチ近い長身ゆえに腰痛があったことから生まれたともいわれるが、もともと柔軟な体であったことに加えて、新弟子時代から毎日500回の四股を踏み、2000回の鉄砲とぶつかり稽古を繰り返すことで、強靭な肉体をつくり上げた。
組んでよし、押してよし、投げてよし。基本は左四つの組手でありながら、右で組むこともいとわないオールマイティーな取り口は、横綱昇進後に「自分の型がない」と批判を受けることもあったが、大鵬は「稽古につぐ稽古から自然に生まれるのが、私の相撲であった」と、後年に語っている。
60年の初場所で新入幕すると、父の血を引く白い肌にくっきり大きな二重まぶたの目、鼻筋の整った顔立ちもあって、大いに人気を博すことになる。そうして昭和以降での新入幕では、最多となる11連勝を挙げると、12日目には2年早く入門していた小結・柏戸剛との対戦が組まれた。
“横綱の風格”を示した
ここでは敗れた大鵬だが、その後、柏戸とは終生のライバルとしてしのぎを削ることになり、61年九州場所で大鵬と柏戸がそろって横綱昇進すると、相撲人気は絶頂を極め「柏鵬時代」と呼ばれるようになった。大鵬と柏戸の対戦成績は通算で大鵬21勝、柏戸16勝。最後に大鵬が5連勝したため差はついたが、16勝で並んだときまでは甲乙つけ難い熱戦を繰り広げている。
ただし、星ひとつの差で優勝を争った5場所のうち、四度で大鵬が優勝していたこともあって、人気面では大鵬が圧倒。60年代前半には子どもたちの好きなものとして、「巨人・大鵬・卵焼き」との流行語も生まれた。ちなみに大鵬自身は野球好きではあったが、アンチ巨人だったという。
美男ゆえに女性人気が高く、大鵬の取組時には銭湯の女湯から人がいなくなったとの逸話もある。また大鵬の本名、幸喜にあやかって名付けられた子どもも多く、脚本家の三谷幸喜もその一人であるという。
幕内優勝32回は当時の歴代最多記録(現在は白鵬の45回)。20連勝以上が9回、二度の6連覇を成し遂げるなど、圧倒的な強さを誇るとともに、横綱らしい高潔な立ち居振る舞いでも知られた。
69年の春場所、そこまで45連勝で迎えた2日目の取組で、大鵬は戸田(のちの小結・羽黒岩)に押し出しで敗れた。
戸田が土俵下にまで突っ込みながら大鵬を押し出すという激しい相撲で、行司は大鵬に軍配を上げたが物言いがつき、協議の結果、行司差し違えとして勝敗は覆った。
しかし、テレビカメラの映像や新聞社の写真には、戸田の右足が先に土俵を割った瞬間がしっかりと収められていた(これがビデオ判定導入のきっかけになった)。
その後、この顛末を知らされた大鵬は恨み言の一つも言うことなく、ただ「あんな相撲をとった自分が悪い」と話したという。
表向きには堂々と「横綱の風格」を示した格好だが、内心では悔しさや心痛もあったのだろうか。大鵬は疑惑の黒星の後、5日目からは扁桃腺炎により同場所を休場している。
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