蝶野正洋 (C)週刊実話Web
蝶野正洋 (C)週刊実話Web

蝶野正洋『黒の履歴書』~「暴露問題」に見るプロレス界の課題

新日本プロレスのIWGP世界ヘビー級の初代チャンピオンである飯伏幸太選手が、社員から契約解除をほのめかされたというLINEの文面をTwitterに公開し、自らの退団を示唆したことがファンの間で物議を醸している。


それを受けて新日本プロレスが会見を開き、木谷高明オーナーと大張高己社長が登壇してファンや関係者に対して心配をかけたことを謝罪、飯伏選手との契約は続けると発表した。


【関連】蝶野正洋『黒の履歴書』~“カネの扱い方”で分かる信頼性 ほか

現時点では、飯伏選手はまだ会社に対する不信感を募らせているようなので、今後どうなるか分からない。双方の主張についても、断片的な情報しか伝わってこないから、俺からはどちらが正しいとも言えない。まぁ、プロレス界というのは、何が本当のことなのか分からないことが多いからね。


俺がプロレス界に入ったばかりの頃、ある先輩選手がすごくいい試合をして、リング上で握手して「これからみんなで頑張るぞ!」と言った翌日に離脱会見を開いたことがあった。あれを間近で見て、この業界は何が起こるか分からないと思い知ったよ。


ただ、今回の飯伏選手の場合は、いろいろと溜まっていたものがあったんだと思う。これはテレビ解説でも言ったことがあるんだけど、飯伏選手は新日本プロレスのトップレスラーではあるけれど、他団体から移籍してきた選手で〝生え抜き〟ではない。そのぶんプレッシャーも大きいだろうし、周りからの嫉妬もある。そのせいでいつまでも会社のことを信用できないし、自分も信用されてないと感じてしまうんじゃないかな。

トップレスラーは孤独…

飯伏選手が今、ケガで欠場中というのも影響があるだろうね。自分が動けない間にも試合はあるから、焦りも出てくる。プロレスラー同士、どんなに仲がよくても、ポジションが空いたら奪い合いになるからね。

昔の新日本なんてもっとすごいよ。昔、アメリカ遠征中にケガして欠場することになって、顔だけでも出しておこうと会場に行ったら、会社からは「歩けるんだったら試合出ろよ」って怒られるし、選手たちは「悪いが、その場所はいただくよ」という雰囲気で誰も励ましてくれない。こっちは痛くて苦しいのに、ハイエナみたいな奴らばかりだった。


あと、Twitterでの暴露というのも問題かもしれないね。今やSNSを使えば選手がダイレクトに自分の想いを発表できてしまう。それで問題がややこしくなることはあると思う。


俺が現役の頃は、会社に文句がある時は会場でマイクを持って直接言っていた。あとはスポーツ新聞や週刊誌を巻き込んだりね。ただ、東スポだとあることないこと記事にされちゃうから、それで会社から怒られるなんてことはしょっちゅうだった。でも、そういう飛ばしの記事で遺恨が生まれて、いざ試合したら語り継がれる名勝負になったということもあるから、悪いことばかりじゃないんだけどね。


トップというのは孤独なものだけど、今の飯伏選手はいろいろなことが重なって、より孤立していたんじゃないかな。だからこそ、会社は選手のケガだけでなくメンタルのケアもちゃんとするべき。


個人的にも、まだまだ新日本プロレスで飯伏選手の試合を見たいと思ってるから、今回のトラブルもうまく解決してほしいね。
蝶野正洋 1963年シアトル生まれ。1984年に新日本プロレスに入団。トップレスラーとして活躍し、2010年に退団。現在はリング以外にもテレビ、イベントなど、多方面で活躍。『ガキの使い大晦日スペシャル』では欠かせない存在。